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朝ドラ『おちょやん』に逆風。でも杉咲花や篠原涼子の芝居にうなる

ごりょんさんの別れと百合子が去る回の素晴らしさ

 さらに、本役の杉咲花がやっぱり抜群に上手いですね。彼女のセリフ回し、丁々発止のやりとりは、実に耳に心地良い。もともとリズム感の良い方なのか、耳の良い方なのか。まるで歌を聴いているような心地よさがあります。 「うちのやりたいことて、なんやろ」で、さあ、いよいよ本題へ。と思ったら、なかなか進まないのが、この作品の一つの特徴です。  視聴者的には「早く本題に入ってくれ!」とジリジリしている人が多いでしょう。まずはお世話になった岡田シズ=ごりょんさん(ご寮人さん。若奥さんといった意味。演・篠原涼子)への恩返しがたっぷり描かれたときには、ちょっとそんな気持ちにもなりましたが、18日の放送分の第15回だけで十分お釣りがくる素晴らしさでした。  ごりょんさんと、再会した初恋の相手で歌舞伎役者の延四郎(片岡松十郎)との別れのシーン。またカチューシャの歌が流れるなか、道頓堀を去っていく女優・高城百合子(井川遥)の姿は、セリフがないままに一つの時代の終わりが感じられ、叙情的で大変美しい回でした。  これから芝居の世界・芸の世界を見せていくんだという序章のようにも感じました。

朝ドラで主人公が大事なものと出会う瞬間はいつ見てもワクワク

 そして、いよいよ24日放送分で、千代はひょんなことから「代理」として引っ張られて舞台の上にあがりました。そこで女優としての輝きを見せるのかと思いきや、緊張で手が震えるわ、セリフは頭から抜けるわ、もう散々。  そう簡単にはいかないのも、この作品らしいところですが、そんな中、ついに自分の本音を舞台上で爆発させた千代に、妙な高揚感の表情が見えました。瞳の輝きと、小鼻のふくらみ、口角だけで、確実になんらかのスイッチが入ったことを感じさせる杉咲花の巧さ。 『カーネーション』の糸子がだんじり、ドレム(ドレス)、ミシンに出会ったときのように、『エール』で裕一が西洋音楽に出会ったときのように、朝ドラにおいて主人公が大事なものに出会った瞬間というのは、いつ見てもワクワクするもの。  しかも、子役時代の千代が芝居に出会ったときと重なるのもワクワク感を増幅してくれます。  そして25日放送分では、クズ父・テルヲの借金のカタにとられ、別の店に売り飛ばされそうになっていた千代を逃がすことで救ってくれたのは、ごりょんさんや旦那さん(名倉潤)、千代を見下し、挑発することも多かったお嬢様・みつえ(東野絢香)、そして道頓堀の(今で言う)ホームレスの人々でした。  この熱い総力戦、ごりょんさんが借金取りを追い返すために打った大芝居も、実に清々しく見事。沈みゆく岡安、道頓堀の意地をかけ、また、千代が「自分のために生きる」という新たな道に旅立つ最高の餞(はなむけ)です。新年に向けて最高の折り返しになりました。  まだまだ本題はこれから。大変な状況下で踏ん張る朝ドラを、ゆったり見守りたいものです。 <文/田幸和歌子> ⇒この著者は他にこのような記事を書いています【過去記事の一覧】
田幸和歌子
ライター。特にドラマに詳しく、著書に『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』『Hey!Say!JUMP 9つのトビラが開くとき』など。Twitter:@takowakatendon
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