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『ボス恋』玉森裕太が“嘘”と“偶然”で甘く悪魔的に誘う

たび重なる偶然、ちょうどいいアドバイス

 就活スーツを着た奈未が、ペンキが塗られたてのベンチに座ってしまうという物語の冒頭。その危機を潤之介が救うことで、ふたりの距離は急速に接近する。  思えば、麗子から「人並みでいいなんていうのは、平均以上の能力やステータスがある人間が使える言葉」とたしなめられ落ち込んでいるときや、坂道で大量のレモンをぶちまけてしまったときに偶然、奈未の前に現れるのが潤之介という存在だった。 「夢ってさぁ、なきゃいけないのかな? 夢を持ってる人を否定しないけど、別になくたっていいんじゃないかな」 「夢に縛られたり、夢を持つことにとらわれたりしたり、それで笑えなかったら意味なくない?」  同僚とは違い夢ややりたいことがないことに悩む奈未に対しては、そんな言葉をかける潤之介。落ち込んでいるときに偶然鉢合わせ、しかもちょうどいいアドバイスをしてくれるんだから、好きにならないわけにはいかないでしょう。

だから『プラダを着た悪魔』とは違う

 出版不況のこの時代に、新しいファッション雑誌を創刊する物語を描くことに違和感を覚える人もいるだろう。ドラマだからなんでもありなのだけど、そのストーリーは映画『プラダを着た悪魔』に類似し過ぎているとも指摘されている。
プラダを着た悪魔

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 実際、『プラダを着た悪魔』には『ハリー・ポッター』の新作原稿を手に入れることを上司のミランダが部下のアンディに強いる場面があった。人気漫画家にイラストを描いてもらう第2話にとても似ている。  そうした下地は同じなのだが、しかし、ひとつには主人公の性格・造形が全く異なることが挙げられる。『プラダを着た悪魔』のアンディにはジャーナリストという夢があるが、『ボス恋』の奈未には夢がない。そして、そのことを肯定してくれる潤之介という存在もいる。 『ボス恋』はバリバリ働くお仕事ドラマという側面もあるけれど、それを前面に押し出すドラマではないだろう。仕事面でアクセルを踏む麗子と、恋愛でブレーキをかける潤之介という両側面の人物が存在している。  一服の清涼剤としての潤之介が、仕事で悩む奈未にそっと寄り添う存在になるのか、あるいは激しく恋に狂わしていくのか。潤之介の偶然の登場と甘い嘘に要注目だ。 <文/原航平>
原航平
ライター/編集者。1995年生まれ。『リアルサウンド』『クイック・ジャパン』などで、映画やドラマ、YouTubeの記事を執筆。カルチャー記録のブログ「縞馬は青い」を運営。Twitter:@shimauma_aoi
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