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“マスク育児”が子どもの発達に影響?親・先生の表情がよめないリスク

 新型コロナウイルスの感染症対策で、マスクをつける生活が当たり前になりました。それは、保育や教育の現場でも同じです。
マスク

※画像はイメージです(以下、同じ)

 子どもからすると、常に周りの大人の表情が読めない。この状況が続くことについて、ヒトの心の発達や進化を研究する京都大学大学院教育学研究科の明和政子教授は「子どもの発達に影響する可能性」を指摘します。  マスク育児がどのような影響を及ぼすのか、またその対策や、親子のコミュニケーションを深める効果的な方法について明和先生に聞きました。

マスクによる、赤ちゃんの発達への影響は?

明和政子先生

明和政子先生

――子ども達と長時間接する保育士さんや学校の先生たちが、マスクをつけざるを得ない状況が続いています。マスクで表情が見えづらいことは、子ども達の発達にどのように影響すると考えられるのでしょうか? 明和政子先生(以下、明和):子どもの脳が発達する過程では「感受性期」という、とくに環境の影響を受けやすい時期があります。そのうちのひとつが乳幼児期です。この時期は、相手の感情を理解したり、ことばを身に付けたりする重要な時期ですが、マスクをした他者との日常が、こうした能力の発達に影響を与えるリスクは否定できません。  たとえば、生後半年前後から就学前頃までは、脳の視覚野という部分の発達の感受性期にあたります。他者の目や口の動き、口元から発せられる音声など、顔全体の豊かな動きや音を見聞きする経験が重要です。しかし、今、多くの人がマスクをしていることで、子どもたちはこうした経験を得ることが難しくなっています。 ――そのことで、どのような影響があると考えられるのでしょうか? 明和:現時点で言えるのは、「脳の発達の最中である赤ちゃんの心に、何らかの影響が出てくる可能性は否定できない」ということです。さきほどお話したように、この時期の赤ちゃんは、目や口全体が豊かに動く表情を見ることで、相手の気持ちを理解していきます。また、口元から発せされる音声も同時に見聞きすることで、それを真似しながらことばを獲得していくのです。  マスクによって、口の動きを見る機会を奪うと、何が起こるかを実験的に検証することはできませんが、たとえば保育現場からは「コロナ以前に比べて、子どもたちの笑顔が乏しい気がする」「人見知りが起こりにくくなっている」「ことばの獲得もいつもと比べて遅い傾向にある気がする」などといった報告を実際にいただいています。とても気がかりです。  赤ちゃんは、まだストレスを意識すること、ことばで表現することができません。ですので、このようなリスクがある可能性を意識しながら、子どもたちのようすを見守ることは必要ではないかと思います。

4歳ごろから“相手の視点や立場”に立てるように

――0~4歳以降は、何歳くらいに脳が環境の影響を受けやすい時期がやってくるのでしょうか? 明和:4歳以降、「前頭前野」とよばれるもっとも高度な情報処理をする脳領域の感受性期を迎えます。いわゆる「イヤイヤ期」から卒業しはじめる年齢です。「イヤイヤ」は、前頭前野がいまだ未成熟なために「自分の心と相手の心は異なっている」ことが理解できないことに起因します。4歳の誕生日を迎えるころから、ヒトの前頭前野は環境の影響を受けながら急激に発達し、相手の視点や立場に立って物事を理解するようになります。 ――その時期に、周りが常にマスクをしていたり、ソーシャルディスタンスをとることは、どのような影響があると考えられますか? 明和:前頭前野を急激に発達させる段階にある幼児期から就学期の子どもたちは、脳の中に「豊かな表情を経験して発達してきた」過去の記憶があります。ですから、教師や同級生がマスクを付けたり、ソーシャルディスタンスを守ることに違和感を感じます。そうした日常の制約は、彼らに意識的なストレスを生じさせやすくなります。しかし、ストレスをことばで表現する力もまだ発達途上にある彼らは「自分がなぜ辛いのか」を説明することも難しいでしょう。 ――そういう時に、大人はどうサポートすればいいのでしょうか? 明和:学校の先生方の中には、これまでの経験の中で、子どもたちに生じ始めている変化を感じられている方も多いのではないでしょうか。表情だけに頼らないやりかたで自分の内面を伝えたり、相手の気持ちを理解する機会を作るために、ボディランゲージを積極的に使うことを試みられている先生もいます。また、喜怒哀楽をイラストで表現した「表情カード」のような視覚的媒体を独自に作成し、子どもたちに使わせる工夫をされている先生もいらっしゃるようです。
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家庭ではどうすればいい?
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