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『俺の家の話』戸田恵梨香演じる後妻業の女「遺産目当てじゃない」が「金はもらう」

介護における本音と建前があぶり出される

 第1話と第2話を観て率直に感じたのは、<本音>と<建前>の描き方がとても軽妙だということ。  第1話の序盤では、25年ぶりに再会した病床に伏す寿三郎に向かって、「なぜ父親の後を継ぐのか」と25年間考え続けた寿一の苦悩が言葉にされる。それはまさしく、「長男だから」という<建前>に回収されない<本音>の吐露だった。 「長男だから? 勘がいいから? 性格が素直だから?…(中略)親父の後を継ぐ理由が、そんなどっかから借りてきたような言葉でいいわけがねぇ。もっとオリジナルの、世界中で俺しか持ってねぇような、世界タイトルチャンピオンベルトみてぇな。そんななにかじゃねぇと、納得できねぇ」  そんな想いを抱えながらも、否応なしに介護ははじまる。「息子だからできねぇんだよ」と最初は本音を漏らしながら抵抗感を示すも、“そんなことを言っていられない”のが介護というものなのだ。だからひとまずは、「そういうもんだから」=「長男だから」、という<建前>に落ち着かざるをえない。 「俺がやるよ、あんたが俺にやってくれなかったこと。全部やってやるよ。なんでかわかるか? そういうもんだからだよ」  むしろ寿一は、父親がやってくれなかった「家族」としての役割を徹底的に果たしてやろうと意気込む。そうして、たがいに能楽とプロレスの舞台から降りた親子は、介護によって<能面>では隠しきれない<素顔>に出会っていく。

「遺産目当てじゃない」が「金はもらう」さくらの本音

「私は寂しい老人を慰めて、それに見合った対価をいただくだけのものです。騙すつもりはない。遺産目当てじゃ決してない。けどもらえるものはもらいます、いけませんか?」  寿三郎の介護ヘルパーであり結婚も申し込まれているさくらが、後妻業の女だという正体が暴かれた上でそう告白する第2話。彼女もまた、<本音>と<建前>を描く本作における重要なキャラクターである。  上記の言葉にはおそらく嘘がない。「老人を慰めること」が自身の生きがいでもあるが、だからといってまったくの無償ではそんなことできない。「遺産目当てではない」が、お金をもらえることを期待してもいる。  そんなさくらに対して、「介護に対価なんていらない!」「家族だから苦もなく毎日介護ができる!」と言いきれればどれだけ気持ちいいか。ただ人間という生き物は、悲しいかなそれほどまでの聖人にはなりきれない。  裏の顔があったさくらであっても、今の観山家には「寿三郎を元気づけ、介護までしてくれる」彼女が必要であるというのが真実なのである。  第2話では「お金がない」ということが主題にもなっていたが、それでも介護は続くし、子どもの進路は考えないといけないし、家族の問題は多く立ちはだかってくる。それは「そういうもんだから」。  現実社会にも接続するようなさまざまな問題が描かれる『俺の家の話』に、<本音>と<建前>をうまく織り合わせながら笑って生きていく手法を教えてもらいたい。 <文/原航平>
原航平
ライター/編集者。1995年生まれ。『リアルサウンド』『クイック・ジャパン』などで、映画やドラマ、YouTubeの記事を執筆。カルチャー記録のブログ「縞馬は青い」を運営。Twitter:@shimauma_aoi
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