3年前のことだ。夫の様子がおかしくなった。いつものように文句を言わない代わりに、彼から精気が抜けていくように感じられた。病院に行くことを勧めると、本人もおかしいと思っていたのだろう、珍しく素直に従った。
「夫はうつ病を患っていました。会社のシステムが激変したらしくて、それについていけなくなっていた。無理をしてほしくなかったので休職してほしいと言ったんです。夫もつらかったんでしょうね、1ヶ月入院して。
その後1ヶ月、家で療養していたとき、『今までごめんね』と急に言ったんです。『うつ病になって初めてわかった。俺はナオミにどれだけ支えられてきたか』って。性格が変わっていましたね」

それから夫婦でゆっくり話す時間が増えた。夫は本来、陽気で楽観的なタイプだったらしい。だが大学を出て就職したとたん、かなり厳しい出世競争に巻き込まれた。負けん気が強かったので、無理してがんばってしまったらしい。
その結果、思ったような出世はできず、自分で自分が情けなくなり、さらに周囲がみんな優秀に見えて落ち込んでいったという。
「私や子どもたちにとっては、大事なおとうさんだからね、それだけは忘れないでと言いました。そのときは本当に心からそう思った。この人を本来の明るい人に戻したい。その一心でした」
夫は少しずつ仕事を始めた。会社もそこは理解を示してくれたらしい。そのためにナオミさんは夫の上司にも会って話し合った。
「昨年からのコロナ禍で、夫は週に1、2回の出社ですみ、在宅勤務で気楽に仕事をしているようです。私はずっと変わらずフルタイムで出社。でも夫が料理を覚えてやってくれるようになったんです」
結婚したということは縁があったということ。もちろん嫌いで結婚したわけでもない。だからこそ、「我慢の限界」を超えていないなら、離婚を踏みとどまって結婚生活を続けてみるのもいいかもしれない。ナオミさんはしみじみとそう言った。
人生、何が起こるかわからない。離婚はいつでもできると考えれば、とりあえず生活を続けてみる、夫をもう一度信じてみる。そんなことが功を奏することもあるかもしれない。
―シリーズ「
結婚の失敗学~コミュニケーションの失敗」―
<文/亀山早苗>
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