宇垣美里「動物園に人間のおりがあった」/映画『ミアとホワイトライオン 奇跡の1300日』
元TBSアナウンサーの宇垣美里さん。大のアニメ好きで知られていますが、映画愛が深い一面も。
そんな宇垣さんが映画『ミアとホワイトライオン 奇跡の1300日』についての思いを綴ります。
●作品あらすじ:ホワイトライオンと少女の友情と、家族の再生を通して、南アフリカで問題になっている動物観光や狩猟の現状を描く物語。
ライオンファーム経営のために家族で南アフリカに移った11歳のミアは、心に病を抱える兄にかかりきりの母、仕事に追われる父の中で、孤独を感じていました。
そんな日々のなかでクリスマスに農場でホワイトライオンのチャーリーが生まれ、まとわり付いてくる小さな彼の世話をし、共に成長していくうちに、ミアは特別な友情を結んでいきます。
3年の時が過ぎ、チャーリーの存在はライオンファームにとっても観光客を呼べる重要な存在となっていました。そんなある日、ミアは父親が隠していた驚きの事実を知ります。
父親は「缶詰狩り」の業者に、自分のファームで育てたライオンを売っていたのです。「缶詰狩り(キャンドハンティング)」とは、人工的に繁殖させた動物を囲いの中に放って、ハンターがなんの苦労もなく動物を仕留めることができるようにした狩猟で、娯楽や獲物の角などから作られる狩猟記念品が目的であり、多くの批判がなされています。
チャーリーを救うため、ミアは危険に立ち向かいながら、野生保護区を目指し、南アフリカを横断しようとしますが…。
大自然を背景にした少女とライオンの物語を、宇垣美里さんはどのように見たのでしょうか?(以下、宇垣さんの寄稿)
南アフリカの大自然を駆け回るたくさんの野生動物たちに、台所からぴょこんと顔を覗かせるミーアキャット、ワイルドに肉を喰らうライオン。何より心をとらえて離さないのがホワイトライオンのチャーリーだ。
もこもこの体でぽてぽて歩き、ミアの言葉に首を傾げる姿はまるでぬいぐるみ。ぎゅーってしたい!という衝動を抑えきれない。CGなしの本物の動物たちで3年以上かけて撮影されたからこそのリアルな質感、迫力は圧巻だ。
一緒に暮らし親友のように育ったミアとチャーリー。瞬く間に人間の何倍ものサイズに成長しても、変わらずミアに全力で戯れる姿はあまりにもパワフルで、ヒヤッとした。一人と一頭の距離感に緊張感を持つ両親の態度にも頷ける。
前半の野生動物とのほのぼのした共同生活から、後半はライオンたちがどこに売られているかを知ってしまったミアが、チャーリーの命を救うために逃走劇を企て一気にシリアスに。緊迫した状況にハラハラする一方で、ああ、昔こんなふうにライオンと旅することを夢見たなあ、と童心を思い出して少しわくわくした。
にわかには信じがたい、南アフリカでは合法の「缶詰狩り」。父親にも国にも、理由や事情があるだろう。それでも、この世界は変えられないと嘆き、諦めている姿がやりきれなかった。
チャーリーにはミアがいた。でも、他の動物たちは? 他でもない人間のせいで、ライオンは絶滅危惧種になりつつあるという。
私の故郷の動物園に、人間の檻(おり)があった。その心は「胸に手を当ててよく考えてください」と。人類に課されたこの宿題を解決しない限り、答えなんか出せない。
『ミアとホワイトライオン 奇跡の1300日』
’18年/フランス/1時間38分 監督/ジル・ド・メストル 配給/シネメディア
©2018 Galatee Films-Outside Films-Film Afrika D-Pandora Film-Studiocanal-M6 Films
<文/宇垣美里>
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撮影/中村和孝
野生動物との共同生活の裏であぶり出される、南アフリカの社会問題
宇垣美里
’91年、兵庫県生まれ。同志社大学を卒業後、’14年にTBSに入社しアナウンサーとして活躍。’19年3月に退社した後はオスカープロモーションに所属し、テレビやCM出演のほか、執筆業も行うなど幅広く活躍している。