――いろんな経験をされて、役立っていること、もしくは勉強しなければ全く触れなかっただろう面白い経験などがあれば教えてください。
壇蜜「アルバイトは色々やりましたが、法医学教室の助手のアルバイトがユニークでしたね。私、遺体衛生保全士の資格を持っていまして、そのうえでのアルバイトだったので、人の解剖もするし、臓器も自分で取り出すんです。
そのときに見たのですが、脾臓(ひぞう)って人によってしわの数が違うんです。ぷるんとしてるんですけど、切れ込みが全くない人もいれば、切れ込みだらけの人もいて、すごい個性がある。でもそんなこと病気で取るでもなければ、一生分かりませんよね。切痕(せっこん)って言うんですけど、『
脾臓の切痕は人によって違う』というのが、私の今までのキャリアのなかでの、一番勉強になったことかな」
――面白いですね。体のなかの見えない部分に個性があるんですね。

『ハチとパルマの物語』より
壇蜜「そうなんです。脾臓の切痕が人によって違うのはなぜなんだろうって考えると、私、心に余裕が生まれるんです。先生方に聞いても、謎らしいんですけどね。でも、意味のないことを、なんでなんだろうと考えることって、意外と必要なことなんじゃないかなと思うんです。
よく『そんなどうでもいいことじゃなくて』とか言いますけど、どうでもいいことと向き合えるときって、人に優しくできている気がするんです。今、どうでもいいことと向き合う絶好のチャンスですし、向き合っている人を揶揄しない生活をしてほしいです。というか、むしろ揶揄されてもいいやと思えるほうの側に立ちたいと、私は思います」