「彼女と待ち合わせたら、『帰れなくなったんで、朝までつきあってくださいよ』と彼女はニコニコしながら言うんです。じゃあ、と朝までやっている居酒屋に行きました。だけど2時くらいになると疲れてくるんですよね。どこかに泊まろうということになって」
彼はもちろん、何もする気はなかった。だがホテルの部屋に横たわった彼女は、「私、そんなに魅力がないですか」と言った。
当時42歳だった彼はそう言われて初めて、自分が彼女を求めていることに気づいた。だが同時に、それは彼女の人生にとってどういう意味があるのだろうとも考えた。
「彼女は一回り下の独身。これからの人だから、僕がどうこうはできないと思いました。でも彼女は傷ついたと言って泣き出してしまったんです」
抱きしめたらしがみつかれた。もう自制はできなかったと彼はつぶやいた。

それからふたりの関係は深く静かに進んでいる。
「半年ほどたったときに僕が、『まだつきあっていていいの?』と聞いたら、『私はあなたのことが本当に好きなの』と言ってくれた。彼女が誰かと結婚したいと思うようになったら、僕はすぐ身を引くからと告げてあります。彼女の人生の邪魔はしたくない。だけど実は僕自身も、本当に彼女のことが好きで、もう彼女のいない人生は考えられなくなっていた」
うつ状態からは完全に抜け出していた。見るものすべてが美しい。道ばたの花に目がいくようになった。季節の変わり目が風の匂いでわかるようになったと、彼は微笑む。
「恋なんですよ。この年で恋をするなんて思ってもいなかったけど。純粋に彼女のことが好き。自分でも中学生みたいだと思うほど、心が澄み切っているんです」

不倫であっても、本人にとっては大事な「恋」。大人の分別がある不惑の年齢だからこそ、恋にはまると一直線になってしまうのかもしれない。
生きる意欲がわいてきた。彼は仕事にも積極的になり、彼女とつきあって2年たった今は部長補佐をつとめている。同期の中でも早い出世だという。
「すべて彼女のおかげです。後ろ向きになりかけていた僕に前を向かせてくれた。いつも励ましてくれたんです。比べてはいないけど、妻は僕を褒めたり励ましたりしてくれない。この2年、『あなたならやれる』『あなたなら大丈夫』と言い続けてくれたのは彼女です。
いつか彼女は僕から離れていく。そう思うだけで泣けてくるんですが、彼女と一緒にいられる時間を大事にしたいと思っています」
人生の折り返し地点で、人生に再び意義を見いだしたサトシさん。彼女との将来が明るいものではないと自覚しつつ、「今を生きる」と決めたそうだ。
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<文/亀山早苗>
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