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DVから逃げた後の貧困。離婚前の“プレひとり親”を苦しめる「制度のすき間」

 夫と別居している離婚前の母親のことを“プレひとり親”や“プレシングルマザー”と呼ぶことがあります。別れを決意してから離婚が成立するまでにはある程度の期間が必要で、長期化することも珍しくありません。まして、夫からDVを受けて避難した場合ならなおさらです。  今回話を聞いたのは、夫の精神的DVから逃れてボストンバッグ1つで家を飛び出したという「プレシングルマザー」の田中加代さん(仮名、40代)。
プレひとり親

子どもを連れて夫と別居している「プレシングルマザー」の田中加代さん(仮名、40代)

「家を出てDV夫とようやく離れることができたけれど、金銭的な不安は尽きることがありません」と語る田中さんは現在、小学校高学年の息子と関西圏のマンスリーマンションで暮らしています。  子どもとの生活をひとりで支えなくてはならない一方で、法律上の離婚が成立するまでの間は「児童扶養手当」「ひとり親世帯臨時特別給付金」「ひとり親家庭等医療費助成」といったひとり親家庭のための支援は受けることができません。そのため、“プレシングルマザー”の生活は困窮しやすい傾向にあるのです。  彼女が家を出るに至った経緯や、現在の生活の様子について取材しました。(以下、「」内コメントすべて田中さん)

妊娠後に始まった夫のモラハラに、心をすり減らす日々

 学生時代からつきあっていた夫と結婚したのは、14年前。結婚後は共働きでそれぞれ忙しく暮らしていましたが、妊娠を機に田中さんは退職。外回りや接待が多い職種で、子育てをしながら仕事をしている女性社員が職場にいなかったため、退職をして育児に専念することに決めたのでした。  そのころから、田中さんは夫の言動に違和感を覚え始めました。お腹が大きくなるとともに日常生活が少しずつ制限されていく田中さんのことを、嘲笑するような心無い言葉を口にするようになったのです。
妊娠

写真はイメージです(以下同じ)

「子どもが生まれたら変わるかもしれない」という期待も抱いていましたが、夫の態度や言動は出産後はさらに悪化していきます。 「夫は子どもに全く関わりませんでした。お父さんが仕事に忙しくて育児に関わることができない家庭はたくさんあると思います。夫の場合にはそれにモラルハラスメントが加わっていました。夜泣きの対応でフラフラしているときに『君は毎日が日曜日でうらやましい』『自分が買った家に住ませてやっている』ということを平気で言うようになっていました」

息子が初めて1人歩きした日も無関心……共感力の欠如した夫

「一度、そうした生活に限界がきて、寝不足で辛いこと、1人で育児をするのは息が詰まることを大泣きしながら伝えましたが『僕は母親じゃないから、何が辛いのかわからない。専業主婦だから子育てに専念するのは当たり前。仕事をしている僕が育児もしたらフェアじゃない』と返答されました。離婚を考える日もありましたが、幼子(おさなご)を抱える専業主婦として『今、私が我慢すればいい』という思いで離婚を思いとどまりました」 赤ちゃん 歩く 職場での評価はきわめて高い田中さんの夫でしたが、家族に対しての共感力は著しく欠如していました。初めての1人歩き、おむつ外し、私立小学校の受験合格……本来なら夫婦で手を取り合って喜ぶような子どもの節目にも夫は無関心で、折に触れて育児を担う田中さんを全否定するような言葉を放ちます。  その後10年以上、夫からの「精神的DV」とも呼べるモラルハラスメントに心を削られる日々が続きます。「いつか家を出よう」、そんな思いを秘めながらもなんとか結婚生活を続けられた理由としては「基本的に夫は激務で家にいない時間が多かったから」と田中さんは振り返ります。
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ボストンバッグ1つで家を飛び出した日のこと
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