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DVから逃げた後の貧困。離婚前の“プレひとり親”を苦しめる「制度のすき間」

子育てしているのに、児童手当を受け取れない理由

 コロナ下で実施されたある調査の結果からも、離婚前のプレシングルマザーが厳しい経済状況に追い込まれやすい傾向がわかります。  2020年、フローレンスや認定NPO法人しんぐるまざぁず・ふぉーらむ等が共同でおこなった「別居中・離婚前のひとり親家庭アンケート調査」(2020年9月実施、有効回答数262件)では、別居中・離婚前のひとり親家庭のじつに7割超が「就労年収200万円未満」という結果に。これは「母子世帯」の就労年収200万円未満の割合58.1%を上回っています。
別居中・離婚前のひとり親家庭アンケート調査

出典:ノーセーフティネットひとり親家庭を救え!別居中・離婚前のひとり親家庭アンケート調査報告書(「別居中・離婚前のひとり親家庭」実態調査プロジェクトチーム)

 田中さんも受け取れていないという「児童手当」については、両親が別居中の場合は住民票を別世帯にする(世帯分離)ことを条件に、受給者を変更できることになっています。しかし、手続き上の煩雑さや、DV加害者である配偶者と関わることを避けるという理由から、受給者の変更をしていないケースも目立つようです。なお同調査では、回答者である別居中・離婚前のひとり親家庭のうち、約7割が相手からのDVを経験していました。

離婚前の別居期間に利用できる制度を

 このような苦しい状況をさらに悪化させているのが、新型コロナウイルスの流行です。  現在は地方裁判所にも「ウェブ会議」が広がっていますが、2020年の一時期は新型コロナウイルスの影響で調停が中止・延期となり、長期化しているケースも報じられていました。つまり、相手が合意していない場合には離婚の話を進めることすらできず、支援を受けられない苦しい生活までも長期化してしまっているのです(離婚調停を経ていないと、離婚訴訟の申立もできません)。 親子 貧困 間もなく離婚調停が始まるという田中さんは、調停の長期化を案じています。 「離婚調停の呼出状を受け取った夫からは、何度も連絡がありました。返答せずにいたら、担当弁護士のところにも夫から自己弁護に徹した分厚い書類が届けられているようで、別居していても折に触れて夫の影におびえています。  彼はプライドが高く世間体をひどく気にする人なので、家庭の外で常識を逸脱(いつだつ)する行動にでることはないと思いますが、調停は一筋縄ではいかない予感です。当日は夫と顔を合わせたくありませんが、待合室をあちこち探し回るのではないかと今から不安で仕方がありません。  今回のことでひとり親の支援について調べてみたら、以前と比べて制度がかなり手厚くなっていることがわかりました。でも、離婚成立後でないと利用できない支援や手当もあるので、私のような今別居中で離婚前の立場でも使えるものが増えて欲しいと思います」  プレシングルマザーは経済的にひっ迫した状態に陥りやすいだけでなく、住み慣れた地域を離れることで母子が社会的に孤立するなど、様々な要因で心理的なストレスが増大しやすくなっているようです。  現在は、新型コロナウイルスによって家庭内の精神的・肉体的暴力の増加や、女性の雇用環境の悪化などの影響も生じています。弱い立場に追い込まれた女性を取り巻く環境が急速に悪化する中、制度のすき間からこぼれ落ちる人がいないよう、新たな支援策が必要となりそうです。 <取材・文/北川和子>
北川和子
ライター/コラムニスト。商社の営業職、専業主婦を経てライターに。男女の働き方、家族問題、地域社会などをテーマに執筆活動を行う。
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