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市村正親「女優 篠原涼子の一ファンとして」に見る、俳優夫婦の“深い業”

篠原涼子の高視聴率ジンクスが崩れはじめていた

 一方、篠原涼子はどうか。夫・市村復帰後の主演ドラマ「オトナ女子」(15年)は「ラスト・シンデレラ」の盛り上がりを期待されたもののあまり話題にならなかった。政治をテーマにした意欲作「民衆の敵~世の中、おかしくないですか!?」(17年)の評判も芳しくなかった。 「ラスト・シンデレラ」までは視聴率のとれる俳優だった篠原のジンクスが崩れはじめていた。虐待をテーマにした「愛を乞う人」(17年)、韓国の人気映画のリメイク「SUNNY強い気持ち、強い愛」(18年)や脳死を扱った東野圭吾の問題作「人魚の眠る家」(18年)など作品に恵まれ賞も獲っているにもかかわらず、00年代の頃の圧倒的な求心力は見られない。  もちろん10歳以上年齢を重ねているのだから変わっていくのは当然のこと。だが彼女の武器だったハツラツとした欲望や世界に毅然と立ち向かう勝負心みたいなものが薄まった分を埋める新たな演技の技が育まれていなかった。  例えば朝ドラこと連続テレビ小説「おちょやん」(2020年度後期)。道頓堀の芝居茶屋を仕切る頼もしいごりょんさん(女将)として主人公(杉咲花)を支える役割。でんと座っているだけで華があるのはさすがだが、若い主人公とは一味違う大人の妙味を期待すると物足りなかった。  満を持してのリメイク「ハケンの品格2」も演技は変わらず見た目は年相応。
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 近年のどの作品にも完全に家庭に入って休んでいたわけでもないのにかなり落ち着いちゃった感が漂う。仕事と家庭を両立していることはすばらしいが、演技にエネルギーが全部注がれてない感じがするのである。

市村は篠原にもっと弾けてほしいとじりじりするのでは

 もし市村正親がコメントどおり篠原涼子の芝居のファンだったら、彼女には俳優としてもっと弾けてほしいとじりじりするのではないだろうか。篠原涼子の本気のアドレナリンが噴き出したときとそうでないときとを名優・市村正親は誰よりも敏感に察することができるだろうから。  それを言い換えれば、メロンの食べ頃を外側から適切に察知する能力のようなものである。篠原涼子の俳優として最高に熟成させるために彼女から退路を断ってかごから飛び立たせる決意をしたと思うと合点がいく。世の中には結婚したら家にいてほしいと女性の才能をスポイルしてしまう人もいるが、市村の場合、結婚から数年の篠原の活躍を見るとそんなことないのだろうなあと思うのだ。  いや、もしかしたら、彼にとって篠原涼子のあの頃の輝きはもう必要なく、今度は成長していく子供たちの可能性を糧にして俳優としてますます輝いていくのではないか。吸血鬼か何かのように。俳優ってそれくらい業が深いような気がするのだ(あくまで妄想です)。  とすれば、俳優として最高の時期をもたらした夫の元を羽ばたいた篠原涼子の巻き返しも今後十分期待できる。両者ギラギラした役で共演してほしいくらいだ。互いを最高に輝かせる俳優夫婦は深い業があると思うし、そのほうが面白い。  ふたりが世に出した離婚報告に添えられた写真。キリッと笑顔で並ぶふたりの心が静かに燃えているように見える。 <文/木俣冬> ⇒この著者は他にこのような記事を書いています【過去記事の一覧】
木俣 冬
フリーライター。ドラマ、映画、演劇などエンタメ作品に関するルポルタージュ、インタビュー、レビューなどを執筆。ノベライズも手がける。『みんなの朝ドラ』など著書多数、蜷川幸雄『身体的物語論』の企画構成など。Twitter:@kamitonami
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