町山さんのインタビューによると、ジョーダン・ピール監督は黒人と白人のミックスで中産階級、少年時代にニューヨークの地下鉄で通学していたそう。当時(1980年代)、地下鉄などには黒人ホームレスがあふれており、ジョーダン少年は「
なぜ僕はあちら側にいないんだろう? 彼らと何が違うんだろう?」と思うようになったといいます。
自分はたまたま豊かな家に生まれ教育を受けられたけれど、「
僕が持っているいろんなものをまるで持っていない、僕みたいな子がどこかにいるんだと思うようになった」(『それでも映画は「格差」を描く』より)。その“もう一人の自分”が、いつか自分の人生を乗っ取りにくる、という恐怖が、『アス』のアイデアになったそうです。
同書では、『アス』の冒頭に映るテレビ画面が何なのか、当時の時代背景、襲撃者家族はなぜ赤いツナギを着ているのか、監督がテレビ番組『トワイライト・ゾーン』に受けた影響などなどが解説されていて、「そうだったのか」の嵐です。
他の章も同様で、『ノマドランド』の原作との違い、『ジョーカー』とチャップリンの関係…などを読んで、もう一度観たくなってきます。

『ジョーカー』DVD
ここが町山さんの映画評論のありがたさなんです。「俺のステキな解釈」を開陳するのではなくて、関係者の発言や、小道具が示す意味、脚本の書き換えまで、ファクトを積み重ねて補助線をいっぱい引いてくれる。それによって、映画のメッセージがはっきりしてくるのです。
初期の著書『映画の見方がわかる本』(2002年)を読んだとき、そうそう、こういうのが欲しかったんだ!と思ったものです。
最近の作品だと、『ミナリ』(2020年)を観た人は、ぜひ「
映画その他ムダ話」を聴いてみてほしい。思っていたのと全然違う、神をめぐる物語だとわかります。
というわけで、DaiGoさんをダシに、町山さんの本を紹介したかっただけなのですが、最後にジョーダン・ピール監督の言葉を引用しておきます。
「
人は、貧しい人たちが自分のテリトリーに入ってくるのを恐れ、排除しようとする。この映画(『アス』)のもう一つのテーマは、人は自分や、自分の家族やグループを守るためなら、最悪のモンスターになるということ」(同書より)
<文/女子SPA!編集部・マスダ>
女子SPA!編集部・マスダ
女子SPA!前編集長。腸活のおかげか風邪ひとつひかない50代。映画、寺、植物園、ピアノが好き。家族は男の猫と人