レースの出走時間まではかなりあったため、馬券の購入を終えるとそのままカラオケへ。お店へ向かうときは、当たった際の使い道についてみんなでワイワイと話していましたが、カラオケタイムに突入するとそっちで盛り上がり、馬券のことはすっかり忘れてしまいます。
でも、歌い始めて2時間ほど経ったころ、バイトリーダーが突然「うわぁ、外れた~」と大きな声で悔しがります。実は、自分の携帯電話でレース結果を確認しており、それでむつきさんも馬券のことを思い出します。
ほかのバイト仲間たちから「早く教えてっ!」とせがまれ、レース結果の画面をみんなに見せるリーダー。すると、馬連は《3-7》と表示されており、なんと大当たり。それも2万2190円の万馬券を的中させてしまったんです。

ちなみにこれは大穴の単勝9番人気のマツリダゴッホが優勝した07年の有馬記念。競馬新聞を見ずに予想したことで、結果的に大穴狙いになったようです。
「けど、私は状況が今ひとつ飲み込めなくて、これ本当に当たってるんですか聞いちゃった。ただ、キョトンしている自分をよそにみんなが祝福してくれたんです。まさか300円が2万円以上になって戻ってくるなんて……。
これだけのお金、当時のバイトで稼ぐなら25時間は働かなきゃいけなかったし、そう考えると結構スゴいことなんだと後からジワジワと感動が来ました」
ところが、調子に乗ったバイト仲間のひとりが「今日はおごりだね。ゴチになります!」と言い出し、これに数人が同調。雰囲気的に自分がおごらなきゃダメかと思い、「今日は出すよ」と言いましたが心の中では泣いていたそうです。
「そのとき、リーダーが『お前ら、こいつが一人暮らしで金に余裕がないの知ってるだろ? 今日もワリカンにしよう』って。この一言でおごらずに済んだんです。たかが2万円ちょっとでもあのときの私にとっては大金。ずっと行きたかったカフェでケーキセットを食べたり、いつもよりワンランク上の化粧品を手に入れることもできました。
今思えば大した贅沢じゃないですけど、当たった馬券のおかげで次の正月はすごくいい気分で迎えることができました。あの誕生日と時間に私を生んでくれた母親には感謝ですね(笑)」
ギリギリの生活を続ける彼女への神様からのささやかなご褒美だったのかもしれませんね。
―お金まわりの悲喜こもごも―
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<文/トシタカマサ イラスト/カツオ>
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ビジネスや旅行、サブカルなど幅広いジャンルを扱うフリーライター。リサーチャーとしても活動しており、大好物は一般男女のスカッと話やトンデモエピソード。4年前から東京と地方の二拠点生活を満喫中。