「ずっと夫の様子が普通じゃないと思っていたのに、そんな夫に
とどめを刺すようなひどいことをしてしまったと思います」
お互いに頭を冷やしたほうがいいと提案し、翌日からの週末で、子どもを連れて隣県の実家に帰った英子さん。後日、子どもを実家に預けて夫婦で話し合いをしました。その場で夫は、自分の感じていたプレッシャーを初めて口にします。

「正直、俺一人で育てるなら気楽なのにって本気で思ったんだ。
英子が実家に帰った時、このまま離婚しようと思ってお袋に話した。そしたら、『バカ! あんたじゃ24時間ももたないよ! 母親がどれだけ大変か、想像してみなさい!』って怒られたよ。
でも俺、わかんないわ……一人っ子だし……男だし……いや、何言ってるんだか自分でもわかんない。支離滅裂だよな。悪いけど今もまだ、英子とやっていける自信が全然ない。この家にいるのが辛いんだよ。
退院する日に英子が言ってたでしょ? 『
これから私たちだけでこの子の命を預かるなんて、責任重大すぎて緊張しちゃうね』って。『命を預かる』って言葉が、俺にはプレッシャーになったんだ」
どんな理由があったにせよ、
傍から見たら夫さんの行為は立派なモラハラ。物を投げるなんてもはやDVです。お子さんへの影響を考えて、別居や離婚という選択肢だってあったはず。ですが彼女の行動は違いました。
英子さんは、「まずは体調をなんとかしよう」と夫を説得。少なくとも子どもが1歳になるまでは、何を言われようと別れずに夫の回復を待つと決断しました。その後、夫は抑うつ状態と軽いアルコール依存の相談で心療内科に通い始め、現在は夫婦カウンセリングも受けているそうです。
「私が子育てでいっぱいいっぱいになっている間、夫は夫でひとり、辛さを抱え込んでしまっていました。そのとき『対応を間違えて』しまった私のことを、夫は今も信頼できない気持ちがあるそうです。時間をかけて、関係を回復していくしかありませんね。
幸い子どもはすくすく育ってくれていますし、私は子育てを楽しめています。子どもが言葉を理解し始めるころまでにはなんとか、このギクシャクした状態を脱出できているといいんですが……」
治療を始めて夫の暴言や乱暴な態度はなくなったものの、以前のような明るさを取り戻せていないのが気がかりだそう。二人は果たして、夫婦関係を再構築できるのでしょうか。
(*1)Kenji Takehara, Maiko Suto & Tsuguhiko Kato/Parental psychological distress in the postnatal period in Japan: apopulation based analysis of a national cross sectional survey.Scientific Reports 2020 10(1).
(*2)Dietmar Winkler,Edda Pjrek,Siegfried Kasper/Anger attacks in depression–evidence for a male depressive syndrome
Dietmar Winkler et al. Psychother Psychosom. 2005.
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<取材・文/女子SPA!編集部・黒塩 イラスト/ただりえこ>