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横浜流星の「恐怖すら覚える演技」がスゴい。誘拐事件を描く『流浪の月』

撮影や美術も最上級の仕上がりに

流浪の月 その他にも、『流浪の月』が映画として最上級の仕上がりになった理由がある。撮影監督は『パラサイト 半地下の家族』のホン・ギョンピョ、美術監督は『思い出のマーニー』や『ヘイトフル・エイト』の種田陽平が務めており、光や画角を計算され尽くしたシーンの1つ1つがため息が出そうなほどに美しく、単なる部屋の一角にも「それだけでない」深みを与えているようにも見えてくる。  松坂桃李、広瀬すず、横浜流星はもちろん、撮影時に弱冠11歳であった白鳥玉季の存在感と演技力にも感嘆する人も多いのではないか。その目には不安と信念が同居していて、単なる子どもとは言えない意志の強さを体現していた。その他、決して出番は多くないが、多部未華子、趣里、三浦貴大らが演じるキャラクターを自分と重ね合わせる人もいるはずだ。

「あなたはどう受け取るか」という宿題

『流浪の月』では主軸となる過去の出来事について、中立的かつグレーな描き方をしている。それは誘拐犯と被害女児という、劇中で横浜流星演じる亮と同様に、現実世界で拒否反応を覚える人のほうが圧倒的多数となるであろう題材を扱う上で、誠実なアプローチと言える。  どちらかが正しくてどちらかが悪いという単純な図式で終わらせず、良い意味でモヤモヤさせられ、「あなたはどう受け取るか」という宿題を渡されたような余韻が残るのだ。  現実における、同様の事件への過剰なバッシング、一方的な報道、はたまた事件の被害者への二次加害の問題に対して、主体的に考えるきっかけにもなるかもしれない。それこそが、『流浪の月』の物語に触れる大きな意義だろう。

原作の前に映画を観てほしい理由

流浪の月 個人的に『流浪の月』は、原作の前に映画を観ることをおすすめしたい。原作では主人公の2人それぞれの一人称で綴られており、彼らの心情や意図がはっきりとわかるのだが、モノローグのない三人称視点の映画では必然的にそれらは明確になってはいない。だからこそ、俳優陣の熱演も相まって、映画からは「キャラクターの気持ちや関係性を類推する面白さ」が付け加わっていると言えるのだ。もちろん原作も素晴らしい作品であり、後から読めばより作品への理解は深まるだろう。  何より『流浪の月』は徹頭徹尾、日本トップの俳優陣の演技のぶつかり合いと、映画としてのクオリティの高さを、とことん堪能できる一本だ。2時間30分と上映時間は長めであるが、それを感じさせないほど、のめり込んで観られるはずだ。ぜひ、劇場で見届けてほしい。 <文/ヒナタカ>
ヒナタカ
WEB媒体「All About ニュース」「ねとらぼ」「CINEMAS+」、紙媒体『月刊総務』などで記事を執筆中の映画ライター。Xアカウント:@HinatakaJeF
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【公開情報】
映画『流浪の月』は全国にて上映中。
(C) 2022「流浪の月」製作委員会
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