オードリー・ヘプバーンを苦しめた“父親との記憶”。愛情に飢え、与えた生涯とは
“尊厳ある愛の人・オードリー”
「無償の愛を証明することが(オードリーの)生涯のテーマだった」と話すオードリーの孫が、「世界一愛されてた人が、愛に飢えてたなんて悲しい」と言って、思わず涙する場面がある。オードリーの愛を継ぐ孫の優しげな表情で本作はクライマックスを迎える。
「愛情に飢えすぎると、愛されることに感謝し、愛を与えたくなる」とオードリー本人が語るように、愛に飢えた人生だったとしても、彼女は、逆に愛を与える側の人生に希望を見出した。
持てるだけの最大の愛を他者に対して惜しみなく与え続けること。1988年、オードリーは、ユニセフ国際親善大使となり、世界の子どもたちを支援する姿勢を表明。世界へ向けて、有り余る愛を行き渡らせ、愛の伝道師として各地を訪問した。過去のトラウマ、不安や恐怖を、まるごと愛に変えてみせたオードリーの強い心意気は、今の時代も、いつの時代でも、力強く、有効であり続ける。
「(オードリーが)いつも話題にしてたのは、尊厳(dignity)と愛(love)」とコメントするのは、写真家ジョン・アイザック。愛を求め、愛を得られないからこそ、愛を理解し、重んじる。子どもたちの前でオードリーが、黒板に大きな字で、「I LOVE YOU」と書き、黒板からチョークを悠然とはなし、笑顔を浮かべる瞬間。その誇り高い表情を冒頭の授賞式のハニカミと比べるとどうだろう。“尊厳ある愛の人オードリー”は、まったく変わっていなかった。
<文/加賀谷健>
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