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宗教2世の中学生が抱えた“絶望”とは。今だから見たい映画『星の子』が教えてくれること

 世界中が衝撃を受けた安倍晋三元首相の殺害事件から、2週間がすぎた。その犯人である山上徹也容疑者(41)が世界平和統一家庭連合(旧統一教会)のいわゆる「宗教2世」であり、母親の多額の献金などから家庭が崩壊したことが、動機に大きくかかわっていることも報じられている。
『星の子』公式サイトより

『星の子』公式サイトより

 もちろん、どのような理由があれ、容疑者のしたことは許されるはずがない。だが、それに至るまでの苦悩、その過程の重みを知ること、あるいは同様の問題に思考を巡らせるのは、意義のあることだろう。  ここでは、その一助になるかもしれない、宗教2世の中学3年生の女の子の心理を丹念に綴った、今村夏子の同名小説を原作とした2020年公開の映画『星の子』を紹介しよう。詳しい理由は後述するが、本作はカルト宗教に限らない「信じること」についての難しさ、それでもわずかに残る希望を描いた、素晴らしい作品だった。具体的な作品の特徴や魅力を紹介していこう。 ※映画『星の子』はNetflix、Prime Videoなどで見ることができます

「自分に責任がある」と思い込む主人公

 本作の物語は、未熟児として生まれた主人公・ちひろ(芦田愛菜)に対して「どうしていいかわからなくなった」両親(永瀬正敏・原田知世)の姿を描くことから始まる。彼らはやがて「宇宙のエネルギーを宿した水」を購入し、その力のおかげで娘が助かったのだと完全に信じきっていて、その過程は「奇跡の体験談」としてパンフレットにも掲載される。  何よりも苦しいのは、両親が怪しい宗教にハマってしまった最初の理由が「娘が助かって欲しいと願う親の愛情」だったことだ。そして、中学3年生になった主人公もまた、自身が赤ちゃんの頃から病弱だったからこそ、両親がそうなってしまったのだとわかっているし、ともすれば「自分に責任がある」と思い込んでいるようにも見える。その両親と娘の、ある種の共依存とも言える関係こそが、「抜け出せない」理由になっているのだ。

「激烈な否定」が逆効果になる

 さらに辛いのは、母親の兄であるおじさん(大友康平)がそのことをずっと問題視しており、「荒療治」と言わんばかりの行動を起こすことだ。具体的なその方法や顛末は、実際に映画を観てほしいので秘密にしておくが、それが完全な悪手だったことは告げておこう。  おじさんがやったことは、両親にとっては信仰心を侮辱する最低最悪な行為として映るし、それに加担したはずの主人公の姉も「訳がわからなくなって」おじさんを責めてしまう。信仰心への「激烈な否定」、転じて自分と異なる価値観への排他的な言動は、逆効果にもなりかねないとも思い知らされるのだ。
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信じていた相手からの嫌悪感という絶望
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