「……」
呆然とする佐田さんたちは、戸惑いながら足を踏み入れた知らない家で、姉から
「前に住んでいた家、だいぶ古かったから壊して更地(さらち)にしたのよ。
あなたの私物? そんなもの、出ていったんだから捨てるに決まってるでしょ」
と平然とした顔で言われ、さらにショックを受けます。

「あり得ない事態に夫はドン引きしていました。うちの家族がおかしいのは以前から話していたけど、たぶん想像を上回る異常さだったと思います」
ため息をつきながら、佐田さんは帰省した日のことを振り返ります。
客間に放り込まれたものの母は外出していて年老いた祖母は部屋にこもりきり、お茶を出してくれる様子もなく姉はリビングでテレビを観ており、意気消沈する夫と一緒に「明日帰ろう」とすぐに決めたそうです。
夕食について誰からも声をかけられないのを見て佐田さん一家は外食に出かけ、帰宅してからやっと母や祖母と会話しましたが、
「
夫をじろじろ見ては勤めている会社の名前に役職に年収にと、あからさまに品定めする様子が本当に気持ち悪くて。
でも、夫のほうは覚悟していたのかうまくかわしてくれて、後でふたりになってから『どうせもう会わないしね』とつぶやいていたのが今も忘れられません」
と、昔と変わらず感じる居心地の悪さに「二度と帰らない」と誓います。
赤ちゃんを抱っこさせるのも恐ろしく、「疲れて熱が出ているみたい」と断って後はずっと客間に引きこもり、次の日の朝になると「息子の体調が良くならないから帰る」と言って家を出ました。
「
とっくに私は家族じゃなくなっていたのだな、と思いました。
結婚を報告したときに非常識と言われたけど、自分たちはその前に私の私物を勝手に捨てて実家を取り壊して、どっちがひどいのかわからないですよね。もう実家に行くことはないです」
あれ以来また音信不通となったことを、佐田さんは「今度こそ縁を切る」とこのときだけ強い口調で言い切りました。
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<文/ひろた かおり イラスト/朝倉千夏>
ひろたかおり
恋愛全般・不倫・モラハラ・離婚など男女のさまざまな愛の形を取材してきたライター。男性心理も得意。女性メディアにて多数のコラムを寄稿している。著書に
『不倫の清算』(主婦の友社)がある。