セックスレスになって数年が経った、ある土曜日。この日も別行動で、各々別の美術展に行く日だった。山野辺さんが展示を見終えた頃、スマホに美代さんからのLINEメッセージが届く。

「
ミュージアムショップで待ってるね」
朝、美代さんはひとりで行くと言って家を出た。誤爆の香りがする。怪しんだ山野辺さんだったが、帰宅後、平静を装って美代さんに聞いてみた。すると、展示会場でたまたま学生時代の先輩に会ったので一緒に見ていたという説明。
「その先輩の名前も教えてくれたので、念のためTwitterで検索したら、その人、何ヶ月も前に地方に移住していました(笑)」
当然ながら、山野辺さんは美代さんの浮気を疑った。やがて運命の日が訪れる。
「ある日曜の夜に突然、『明日、職場の同僚数人と夜桜を見たあとカラオケボックスでパーティーをするから、帰りが遅くなる』と言われたんです。でも、おかしいじゃないですか。普通、職場の花見とかパーティーなんて何日も前に計画するものでしょう」
山野辺さんは、美代さんの会社の向かいにあるビルのロビーに夕方から張り込んだ。美代さんの会社とはつまり、山野辺さん以前までいた印刷会社。それゆえ、終業時間が何時で社員がどの出口から出てくるのかを把握していた。
ところが、美代さんと一緒にビルを出てきたのは、大柄で髪をゆわえた男性がひとりだけ。
「
でも、ほかの同僚とは現地集合の可能性もあります。そこで尾行しました」
◇後編「
有名デザイナーと不倫した妻のまさかの言い訳「生活の垢にまみれてる」」に続く。
【ぼくたちの離婚 Vol.22 色褪せる花束 前編】
<文/稲田豊史 イラスト/大橋裕之 取材協力/バツイチ会>