髙嶋政宏「SMに出会って自分を解放することができた」人の目を気にしなくなった理由とは?
「僕のエッセイの精神性を基に、こういう映画ができあがったのは本当に感無量です。他人の目など気にせず、人に迷惑をかけないことであれば、みんなもっと自分の好きなことを自由にやろう。そんなメッセージをお届けできたらいいなと思っています」
俳優・髙嶋政宏さんは力強くそう語る。
今、『愛してる!』という映画が話題になっている。SMを題材にしたこの映画の企画監修が髙嶋政宏さん。言わずと知れた『変態紳士』(ぶんか社)というエッセイで、自らの性癖を率直に表したことで注目を浴びた。女優3人はオーディションで選ばれ、SMラウンジのオーナーはryuchell、監督はホラーの鬼才・白石晃士。
顔ぶれと内容が多くの人の興味をそそったのだろう。舞台挨拶があった公開2日目の客席は満員だった。すでにいくつかの国際映画祭への出品も決まっている。
この映画は、日活ロマンポルノ50周年を機に作られた「ロマンポルノ・ナウ」3作のうちのひとつ。ロマンポルノといえば、1971年から17年間にわたって当時の若者たちの熱狂的支持を得た成人映画レーベルだ。この中で、神代辰巳、村川透、田中登、曽根中生などさまざまな監督たちが続々と頭角を現し、一種の文化現象ともなった。現在では古典とさえ言われ、「ロマンポルノこそ映画作りの技術と粋がつまっている」と大学の講座にもなっている。
「性」を見せ場とはしているが、「性」が売り物ではなく、そこで織りなされるのは当時の若者たちの鬱屈した感情であったり、迷いや悩みだったり、社会への反発だったりする。だからこそ支持されていたのだろう。
それから50年、時代は変わった。だがもちろん、人の心には変わらないものが渦巻いている。多様性と言いながら画一的であることを押しつけてくる社会、他人に寛容になれない人々……。自由を求めてきた半世紀前より、今のほうが息苦しい世の中になっていないだろうか。
今回の「ロマンポルノ・ナウ」3作品には、そんな通底したテーマがあるように思う。
その中でも異色の作品が「愛してる!」である。髙嶋さんのもとに、エッセイ『変態紳士』を参考にした映画を作りたいと日活から連絡があったという。
「おもしろいじゃないですか、とすぐに会議を開いてもらって、いろいろ話をしたんです。僕のエッセイの精神を反映させた別のストーリーができあがってきたときは感動しました」
ただ、SMにありがちなステレオタイプになることを髙嶋さんは懸念した。縛られているM女、鞭を振るう女王さま。SMはそれだけじゃないと、愛好家である彼の血が騒いだ。
「だから監督や脚本家を知り合いの店に連れていって、ちゃんと現場を見てもらいました。ショーとしてSMを見せるのと、愛好家が集まる店は違う。その世界では有名な女王さまや緊縛師にも撮影現場に来てもらっていろいろ意見をいただきました。SMを舞台にするなら、リアリティあるものにしてほしかった。監督はフェイクドキュメンタリーの名手ですから、その手法もあいまって、おもしろい作品になりましたね」
映画の世界観や細かなSMシーンは、髙嶋さんや協力してくれたプロの目配りと心配りに満ちている。特に緊縛シーンは極めてリアルで美しい。
髙嶋政宏が企画監修によるSMロマンポルノ映画が話題
髙嶋政宏のエッセイ『変態紳士』からロマンポルノへ

髙嶋政宏 「変態紳士」ぶんか社





