役作りのためSMショーにひとりで行ったのがきっかけ
ストーリーは、元レスラーで、今は地下アイドルとして活躍するミサ(川瀬知佐子)が、SMラウンジのオーナー(ryuchell)に見初められて女王様の道へと足を踏み入れるところから始まる。そこでカノン(鳥之海凪紗)という一流の女王様に出会い、憧れと畏怖の念を抱く。
ミサに才能があることをいち早く見抜くのが本人役で出演している髙嶋さん。ミサに敵意を燃やす地下アイドルのユメカ(乙葉あい)は、嫉妬をどんな行動に表すのか。そしてミサは本物の女王様になれるのか、そして自分を解放しつづける髙嶋さんは、どういう道をたどるのか。
個性的な登場人物が、それぞれ苦悩する様子はリアルだし、ストーリー展開も無理なくすんなり入ってくる。
「女優さんたちが脱ぐシーンもきわめて自然なんです。ポルノという括りをはずしても、自然な物語の流れでそうなっている」
髙嶋さんは満足そうだ。

『愛してる!』より
そもそも彼がSMに興味を抱いたのは、14年程前に役作りのためにSMショーを見に行ったときだった。「これだ!」と心にピタリとはまり、その後、プライベートでそういった店を訪れるようになった。
「安心安全だと聞いた、とある店に最初にひとりで行ってみたんです。雑居ビルの小さいエレベーターに乗って、ドキドキしながら。ドアを開けたら中はおしゃれで、とてもセンスのいい内装とインテリア。そして、『あら、おにいちゃん、いらっしゃい。ひとりなの?』とママが声をかけてくれたんです。僕が誰であるかなんて関係なく、歓迎ムード。
その後、どういうフェティシズムがあるのかと調書をとられました(笑)。でもそのころは自分が何を好んでいるのか、何に興味があるのか、はっきりとはわからなかった。やはり鞭とか緊縛とか、そんなイメージを書いたような気がします。その後、精進を重ねた結果(笑)、業務用ラップをミイラのように巻くマミープレイがお気に入りなんですけどね」

微に入り細に穿(うが)って説明してくれる髙嶋さん。最近はコロナ禍で店にも行けず寂しいとつぶやいた。
SMと一口に言っても、内容は多種多様。いじめて喜ぶSといじめられて喜ぶMという単純な世界ではない。単なるプレイとは言い切れないのだ。精神性においては深い信頼関係が必須だし、イニシアティブを握るのはMという構図もある。人の好みがいかに多様か、なおかついかに人の業は深く、欲求が複雑なのかがわかる世界だ。
「僕自身、そういう世界に惹かれていると公言したとき、みんなに『どうしちゃったの』と言われたんですが、清水の舞台から飛び降りるような覚悟でカミングアウトしたわけでもないんです。好きなものを好きと言っただけ。だけど自分をさらしたときから仲間ができたし、なにより自分が楽になった」
SMバーは全裸になるわけでもなく、非常に健全な場所だという。同好の士が集まって、自分の好きなことをしながら、ああでもないこうでもないとしゃべったり、ときには大議論になったり。
「みんなまじめに好きなことを追求しているだけなんです。求道者みたいな人もいますからね(笑)」