2021年には、大河ドラマ『晴天を衝け』で主演を務める快挙を成し遂げた吉沢の存在感が、こうして新しいクールのドラマでも健在なのは、冒頭場面でみた通りである。
ボートや自転車に乗っていた頃の武四郎は、2019年の大学卒業間近。物語は、2022年となり、小児科医として丘珠病院に配属され、患者からも同僚からも評判はまずまず。こんなイケメンフェイスの小児科医なんて、実際にはみたことがないと言えばそうなのだけれど、日本の医療現場にとって差し迫った現実問題が、物語の核となる。
北海道知事の鮫島立希(菊地凛子)から直々に頼まれ、その分野のスペシャリストである医師・植野元(安田顕)が、丘珠病院にPICU(小児集中治療室)を新設する。
そこへ栄転だと張り切って転属してくるのが、武四郎だった。ところが、集められたのは、植野と武四郎の他、ワケアリ救命医・綿貫りさ(木村文乃)と口うるさく忙しない看護師・羽生仁子(高梨臨)しかいない。医療現場の人手不足という現実問題が落とし込まれたドラマ空間で、吉沢扮する武四郎は、イケメンフェイスというだけでいったいどう立ち回るのだろうか?
武四郎は、生と死について考えることを避けているところがある。幼い頃に父親を亡くしたことが原因なのかもしれないが、医師としては致命的である。PICUに転属され、数日が経った頃、小児患者が緊急搬送される。武四郎の頭には、2019年のあの日、後部座席で苦しんでいた少女の姿が浮かぶ。彼女は、朝ドラの人気子役だった。まだ医者として半人前の武四郎は、過去の記憶と現実の状況がトラウマ的にリンクする。
緊急措置が施される現場で、彼は、何もできず、ただ立ち尽くすばかり。声を振り絞る少女に耳を近づけるが、吐血した血を浴びる。顔半分が鮮血で染まった武四郎は放心状態で身体が固まる。まるで洗い上げられたように真っ白な吉沢の表情が、息詰まる現場の過酷さを突きつけてくるような、そんな緊迫感のある場面である。
植野の懸命な措置もむなしく、少女は息を引き取る。幼い命が目の前で失われ、否が応でも死を間近で経験した武四郎は、そのあとのミーティングでひとり涙する。
淡々とミーティングを進める先輩医師を叱責するように発言する武四郎のことを新米医師の弱さとみるべきかどうか。そこで植野が武四郎に言う。「亡くなったから話すんです」と。人間の死というものは、残された人たちの心に深く響く。医療物にはありがちな感傷的な場面を演じる上で、場面自体が湿ってしまうぎりぎりのところで、吉沢は、感情を振り絞り、また同時にコントロールしながら、この場面に臨んでいる。吉沢の演技を受けた安田もまた鼻をつまみ、涙をこらえる演技が滋味深く映った。