「そもそも私は作家になりたくて会社を辞めたのに、生活のために編集の仕事をするしかなくて。編集の仕事ももちろん嫌ではなかったけれど、やっぱり私は“自分で書きたい”という気持ちが強かった。
その夢を彼から邪魔されているようにしか思えなくなっていきました。そして……娘が3歳くらいの時です。今度は、3人の生活を支えてくれていた編集の仕事が、どんどん減っていったんです」

理由はわかっていた。ルカさんは、目の前の仕事だけで精一杯で、新しい企画を仕掛けていくほどの時間的な余裕を持てなかったのだ。フリーランスの仕事とは、新規企画をしては売り込んでいく作業も必要。でも現実的には、来る仕事をこなすばかりの体勢になっていたため、仕事が衰退していくのは当然のことだった。
「それに、フリーとは、営業も自分でしなければいけないということ。ですから、どんどん新しい人脈作りもしていかないと、新規の仕事を受注できないし、進化しません。なのに私は、人脈作りどころか、目の前の仕事を納期まで終わらせることすらできなくなって……もう……
仕事もプライベートも、暮らしのぜんぶに限界を感じていました」
一方、なんと、彼のイラストの仕事が、どんどん増えていった。ブログやインスタに掲載していたイラストが好評だったこと、ルカさんが紹介した版元から仕事を受注できたことなど、いくつもの幸運が重なってのことだった。
娘が小学校に入学する頃には、夫婦の収入が逆転。その後、さらにルカさんの収入は下降線をたどった。家事と育児で心をすり減らしたルカさんは、ますますお酒に頼るようになった。
「もともとは、毎日白ワインを2、3杯飲むくらいでした。それが1本とか2本くらい飲むようになって。数年前には、たまたま飲んだ焼酎が美味しく感じて、ワインから焼酎に変わりました。
1.4リットルの紙のパック焼酎ってあるでしょう? あれを2日で一本飲み干すようになっていました。
どうせ誰にも会わないし、お昼から家で飲んでは寝て、少しだけある編集の仕事をして……作家になりたくて、執筆に専念したくて出版社をやめたはずなのに、人生どうなっちゃったんだろうって。……ふたりの収入が逆転した頃から始まった彼のDVもあり、心はすさむ一方でした」
アルコール依存と夫のDVで、ルカさんはさらなる闇へ堕ちていくことになる。(中編へ続く)
<文/安藤房子>
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