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佐藤健主演『First Love 初恋』を今こそ見てほしい!死角のない演技をひも解く

スピーカー俳優の超絶技巧

 第1話、前半30分に満たないのに、早くも見せ場があった。物語の重要な推進力となるタクシー車内での場面。夕日が差す後部座席、晴道がライラックの花束を抱えて座っている。ファイターズとカープ戦の勝敗を気にする彼が電話しはじめると、運転手の占部旺太郎(濱田岳)はそっとラジオの音量を下げるが、ラジオからはある一曲がかすかに聴こえてくる。  宇多田ヒカルの「First Love」。この曲を耳にした晴道は、思わず電話を切り、音量を上げてもらう。いきなりクライマックスのような展開である。画面上でエモーショナルに流れる「First Love」の音は、だんだんとぱきっとした端正な音色で聴こえてくるようになるのだが、それがまるで佐藤健の身体の底から鳴り響くようなのだ。  晴道にとってすごく特別な曲だからこそ、佐藤はそれを冒頭から印象づけようとして、自分がスピーカーのような機能をはたす役作りをしている。名付けて、スピーカー俳優。役作りもここまでくると、超絶技巧ではないだろうか?

非の打ち所がない佐藤健

 テレビ塔がそびえる大通り公園で姪の河野愛瑠(新津ちせ)と待ち合わせる昼の場面も素晴らしい。ゆるやかな風に吹かれた佐藤健の横顔が爽やかで完璧な表情に映り、思わずみとれてしまう。でも、みとれすぎには注意が必要だ。  姪と妹の並木優雨(美波)がやってきた頃には、晴道の髪型がやけに乱れている。いつそんな強風が吹いたのか。いや、そもそも強風が吹いていたのに、それを穏やかで涼やかな爽風と錯覚させたのか。早いものを遅いと感じさせ、遅いものを早いと感じさせる。スローハンド奏法で時間を巧みに操る佐藤健は、やっぱり超絶技巧の持ち主だ。  あるいはタクシーを呼び止めるために、あげた手。その指先のひとつひとつ。乗車した瞬間、彼が乗った反対側の車窓にのぞく横顔。牛丼をかきこみ、お茶で流し込むバストサイズの正面ショットですら。どこにも死角がない。非の打ち所もない。それが佐藤健という俳優である。
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普遍的で、味わい深い物語
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