宇垣美里「272kgの巨体をソファに縛りつける脂肪は“人生の業”そのもの」
元TBSアナウンサーの宇垣美里さん。大のアニメ好きで知られていますが、映画愛が深い一面も。
そんな宇垣さんが映画『ザ・ホエール』についての思いを綴ります。
●作品あらすじ:過食を繰り返し、引きこもり生活を続けてきた40代の教師チャーリーは、重度の肥満症です。その症状の悪化で自らの余命がわずかだと悟り、妻と離婚した当時、まだ8歳だった娘との関係を修復しようと決意します。ところが長らく音信不通だった娘エリーは、17歳に成長した今、学校生活と家庭で多くのトラブルを抱え、心が荒みきっていました…。
『ブラック・スワン』のダーレン・アロノフスキー監督が、『ハムナプトラ』シリーズのブレンダン・フレイザーを主演に迎えて描く、孤独な男性の最期の5日間を、宇垣さんはどのように見たのでしょうか?(以下、宇垣美里さんの寄稿です。)
ストーリーやキャラクターを超え、その演技そのものに魅せられ涙が止まらなくなることがある。
今年3月に開催された米アカデミー賞で主演男優賞に輝いたブレンダン・フレイザー。今作での彼の演技は鳥肌が立つほどに真に迫っていて繊細で、思い出すたびに胸がぎゅっと締めつけられる。
4時間かけた特殊メイクと45kgのボディスーツによって作り出された272kgの巨体は、動きが抑制されているからこそ手を伸ばすときの切実さったらなくて、穏やかな語り口や痛みの浮かぶ澄んだ瞳、哀しげな佇(たたず)まいに心をわし掴みにされた。
セクハラを受け、うつ状態になったことをきっかけに表舞台から長く姿を消さざるを得なかった彼だからこそ演じられたのであろう、魂の演技だった。

撮影/中村和孝

救いを求めて、あがく人々を演じる俳優陣の、圧倒的な“魂の演技”
体を分厚くおおう脂肪は彼の人生の業そのもののよう
大学のオンライン文章講座で生計を立てている40代の教師・チャーリーは恋人を喪った絶望から引きこもって過食を繰り返し、歩行器なしでは移動もままならない。病状の悪化から死期を悟った彼は、離婚して以来音信不通だった17歳の娘との絆を取り戻そうともがき始める。 喪失感をごまかすため自らを傷つけるように手当たり次第に何かを口に運び続ける様子はあまりに痛々しく、体を分厚く覆いソファに縛りつける脂肪は彼の人生の業そのもののようで、溢(あふ)れ出す懺悔(ざんげ)の念に目を覆いたくなった。
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