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宇垣美里「腹が立って仕方がない」/映画『FUNAN フナン』

 元TBSアナウンサーの宇垣美里さん。大のアニメ好きで知られていますが、映画愛が深い一面も。
宇垣美里さん 撮影/中村和孝

撮影/中村和孝

 そんな宇垣さんが公開中の映画『FUNAN フナン』についての思いを綴ります。
映画『FUNAN フナン』

映画『FUNAN フナン』

●作品あらすじ:カンボジア、1975年4月。ポル・ポト率いる武装組織クメール・ルージュによる首都プノンペン制圧のニュースを境に、多くの住民が強制労働のため農村に送られました。一家で農村へ移動する道中、息子ソヴァンと離れ離れになってしまった母親のチョウ。  農村での革命組織(オンカー)の監視による苛酷(かこく)な労働や理不尽な扱いは、彼女と夫クンを、そして共に生活する家族を一人、また一人と追い詰めていきます。  しかし、チョウは決してあきらめません。生き延びて、最愛の息子を取り戻すため―。
映画『FUNAN フナン』

『FUNAN フナン』より

 主人公チョウの声をアカデミー作品賞「アーティスト」の主演女優べレニス・ベジョ、夫クンを「グッバイ・ゴダール!」「パリの恋人たち」の主演俳優ルイ・ガレルが担当しています。  世界最大のアニメーション映画祭であるアヌシー国際アニメーション映画祭でグランプリに輝いた作品を、宇垣美里さんはどのように見たのでしょうか?(以下、宇垣さんの寄稿)

美しい自然を背景に、カンボジアの壮絶な圧政を描く、渾身のアニメーション

映画『FUNAN フナン』

『FUNAN フナン』より

 柔らかなタッチで描かれた、どこまでも広がる田園風景に、燃えるような夕日、青々と茂る森の緑の美しさ。そんな穏やかな自然を背景に描かれるのは、教科書でしか知らなかったカンボジアの壮絶な歴史と、その流れに翻弄されながらも必死で生き抜いた人々の姿だ。
『FUNAN フナン』より

『FUNAN フナン』より

 クメール・ルージュ占領下の’75年、都市部で平和に暮らしていたある家族が、理想の国家の名の下に、平和な日常を奪われる。親と子は生き別れ、過酷な強制労働と理不尽な暴力、飢餓に苦しむ激動の日々を生きることに。  車や服や髪を奪われ、妹は襲われ、あらゆる人間の尊厳と自由を侵された地獄のような日々。
映画『FUNAN フナン』

『FUNAN フナン』より

 心身ともに追い詰められて人々が疑心暗鬼になり、傷つけ合うまでの過程があまりにもリアルで、ただただ怖かった。こんなにも人間が人間によって苦しめられているのに、無情なほど風景は美しく穏やかなまま。  直接的な暴力シーンは抑えているからこそ、その先を想像させ、より現実的な距離感で迫ってくる人の弱さとずるさ。その衝撃が頭から離れない。
映画『FUNAN フナン』

『FUNAN フナン』より

 多くを失い、それでも子との再会を信じて抗い続ける母の強さに圧倒される一方で、都市部での平和な頃と、多くの喪失を経験した後との表情の変わりように胸が痛い。永遠に続くかのような緊張状態と絶望は見ている者をも地獄へと誘う。  追体験、なんておこがましいが、重く、辛く、苦しい。誰にかはわからないけれど、腹が立って仕方がない。それでも見なくちゃいけない。知らないとまた繰り返してしまうから。  悲しい歴史を前に、私たちができることは、ただそこから学ぶことだけなのだから。 FUNAN フナン』 ’18年/フランス、カンボジアほか/1時間27分 監督/ドゥニ・ドー 配給/ファインフィルムズ Les Films d’Ici-Bac Cinema-Lunanime-ithinkasia-WebSpider Productions-Epuar-Gaoshan-Amopix-Cinefeel 4-Special Touch Studios ©2018 <文/宇垣美里> ⇒この著者は他にこのような記事を書いています【過去記事の一覧】
宇垣美里
’91年、兵庫県生まれ。同志社大学を卒業後、’14年にTBSに入社しアナウンサーとして活躍。’19年3月に退社した後はオスカープロモーションに所属し、テレビやCM出演のほか、執筆業も行うなど幅広く活躍している。
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