その後、ときおり夫が子どもたちをじっと見つめたり、何かの拍子に深いため息をついたりするようになった。ユキさんと目が合うと、また「通常バージョン」を必死に取り戻す。おかしい、何か悩みごとがあるのだろうと予想した。

「『最近、忙しいの? 疲れているみたい』と言ったら、いや、別にと笑顔を作るんですが、しばらくするとまたじっと一点を見つめていたりする。かと思うと、
急に私に花を買って帰ってきたりする。とても気分が不安定な感じでした。同時期、家の電話に非通知の無言電話がかかってくるようになった。私のSNSが妙に荒れたこともありました」
あるとき妹になにげなくそんな話をすると、「
おねえちゃん、それ浮気だよ」とこともなげに言われた。夫の浮気など疑ったこともなかったユキさんは、「まさか」と笑った。
「そうしたら妹が、『お義兄さん、それなりにモテるんじゃない?』と言い出して。
ひとりになってからよく考えたら、確かにいろいろなことが短期間に起こっている。何かがある、とあわてて夫のSNSを見たら、フォローしている人に夫の同僚たちを見つけたんです」
「そこからさらにたどっていったら、私は面識がないけど夫の同僚らしき怪しい若い女性がいて。彼女のSNSを探ると匂わせ投稿が多いんですよ。さかのぼって見たら、レストランで食事をしている写真があった。そこ、前に家族で行ったところだったんです。しかも彼女の向かいに座っているのは手元だけがぼんやり写っている男性らしき人。
ぼやけているけど、夫の手じゃないかと思いました」
そこから一気に疑惑が確信へと変わっていった。そこからは証拠集めに走る人、夫を直接問い詰める人など、道はさまざまに分かれるだろう。ユキさんは、それまでの信頼関係を信じて、夫にぶつかっていった。