――SNS上にいるドナーは、自身のプロフィールを公開しているのですか?
長村:学歴や見た目の特徴などがプロフィールに書かれていますが、それが本当かどうかの証拠はありません。さらに、たった一人でやっているだけなのに「精子バンク」と自称するドナーもいて、なんとなく安全に聞こえますが、蓋を開けてみたら性感染症の検査さえ受けていないケースもあります。
茂田:文字にすると信頼できる情報のように見えてしまうんです。ですが、SNS上でのやり取りはこのようなリスクが伴うことは忘れてはなりません。
――SNS上でドナーを探すことをメリットと考える人も?
長村:精子提供以外の関わりを望まないような、ドナーとの距離を置きたいカップルは少なくありません。そのような人は、匿名性を保つためにSNSからドナーを探すケースもあります。
茂田:あとはドナーが見つからなかったり、自分が年を重ねていくことに焦りを感じ、すぐにドナーとコンタクトが取れるSNSを選んでしまうなど。さらに現代では情報収集やコミュニケーションツールがデジタルに変わってきているので、スピーディーに物事が進まないと不安を感じてしまう人もいるように感じます。
長村:こどまっぷに問い合わせしていただく方のなかには、1日でも返事がないと不安になり返信を催促される方もいます。私たちもなるべく早めの対応を心がけていますが、第三者提供ができる機関でも、数ヶ月待つことは当たり前のことです。
そういった焦りでSNS上でドナーを探した結果、生まれた子どもがドナーに会いたくても会えないなど、「出自を知る権利(生殖補助医療により生まれた子どもが、精子提供者を知る権利)」が守られない可能性もあるので、私たちも警鐘を鳴らし続けなければならないと感じています。
――国会ではLGBT理解増進法案をめぐり議論がおこなわれています。セクシュアルマイノリティが安心して過ごせるために、行政に求めることはありますか?
茂田:セクシュアルマイノリティへの「理解増進法」ではなく「差別禁止法」が必要だと訴える人がいる一方で、「差別が禁止されれば、男性が女湯に入ってきてしまう」といったデマも流れています。なので行政が正しい情報を発信したうえで、法整備が行われてほしいです。
当事者は大人だけではなく子どもにもいます。ネット上にあるデマや心ない発言を目にして傷つく子どもたちがいるのも事実です。大人たちの間で騒がれていますが、そこには子どももいることを知ってほしいと思います。
長村:「差別」という言葉を使うだけでバッシングされる世の中になっていますよね。最近、その理由を考えていたのですが、「今までは許されてきたのに、何もコミュニケーションが取れなくなる」「明確なルールがわからない」など、自分がいつ加害者になるかわからないことへの恐怖心を抱いている人が多いように感じました。
どんどん言葉と人の間に距離ができているように感じますが、人それぞれ違うフィルターをもっているだけなので、「加害者」「被害者」という対立構造では考えられないのかなと思います。それよりも、いかに一緒に考えて問題を解決していけるかが重要ですし、それを周りの人にも諦めないでほしいです。
<取材・文/Honoka Yamasaki>