気持ちはあるのに、そして相手の気持ちもわかっているのに、恋には踏み込めず、夫を斬り捨てることもできない。そして相手の妻は太刀打ちできそうにない美人で優秀な女性だった。そんな中途半端さに人は耐えきれるものではない。 「私も同じような状況で恋をしたことがあります」 　そう言うのは、リサさん（仮名・38歳）だ。30歳、同棲している彼がいたがまだ独身だったころ4年ほどともに仕事をしてきた上司に恋をした。8歳年上の上司も彼女のことが好きだと言ってくれた。 「気づかないうちに惹かれあっていたんです。でも彼が別の部下のミスから役員に絞られたと聞いていても立ってもいられなくなった。そのとき自分が恋していると気づきました」 　お互いに気持ちがあるのに、上司は「僕は既婚者だからきみを傷つけるだけだ」と深い関係になろうとしなかった。食事をしたり飲みに行ったりしたことはあったが、最後は握手だけで別れる日々が続いた。 「私は同棲している彼とうまくいかなくなった。これ以上、上司との関係を宙ぶらりんにさせていたら、恋愛だけでなく人生、前に進むことさえできない。そう思ったので、『一度だけでいい』と彼に迫ってホテルへ行きました」 　本当に一度だけ。そう決めていたのに心身の相性のよさを確認しあったようなものだった。そこからふたりは歯止めがきかなくなった。特にリサさんは同棲を解消、新たに部屋を借り、そこで上司を待つ日々を送ることに。 「3ヶ月くらいかな、燃えに燃えました。上司が泊まっていくこともあって、すぐに奥さんに疑われるようになった。そしてそれからすぐ、上司は遠方に転勤を命じられました。一応、栄転だったけど、上司の言い方ではどうやら役員にもバレているようだと。頭を冷やして来いとも言われたらしいです。別れの言葉はお互いに言いませんでしたが、彼が去って行ったとき、私はじっと見ていた。最後に目線が絡み合って、それがせつなくて……」