宇垣美里「こぼれるような色気」に思わず胸をつかまれた瞬間
元TBSアナウンサーの宇垣美里さん。大のアニメ好きで知られていますが、映画愛が深い一面も。
そんな宇垣さんが映画『カード・カウンター』についての思いを綴ります。
●作品あらすじ:米国軍刑務所で10年間服役した元上等兵のウィリアム・テル。彼はギャンブラーとして出直そうとしていますが、そんな中で二人の男と遭遇しました。彼らとの運命的な出会いによって、謎につつまれたウィリアムの人生が徐々に明らかとなり、人生を賭けた復讐と贖罪のゲームの終章が幕を開けます。
主人公を演じたのは『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』『インサイド・ルーウィン・デイヴィス 名もなき男の歌』のオスカー・アイザック。タイム誌が本作での彼の演技をその年のトップ10にあげました。このスリラー作品を宇垣さんはどのように見たのでしょうか?(以下、宇垣美里さんの寄稿です。)
ポール・シュレイダーが監督・脚本、マーティン・スコセッシが製作総指揮と『タクシー・ドライバー』の2人が45年ぶりにタッグを組み、主演はオスカー・アイザック。そんな約束された布陣、観るしかないじゃないか!
ウィリアム・テルと名乗る男は、刑務所に収監されている10年の間にポーカーのスキルを取得。目立ちすぎない賭け方のギャンブルで各地のカジノを巡り、細々と生計を立てていた。ある日、元上官の講演会で己の過去を知るカークという青年と出会い、消すことのできない自分の過去と向き合わざるを得なくなる。
なぜウィリアムは服役していたのか。魚眼カメラのような独特のカメラワークで表現される主人公の心の傷となった過去の回想シーンから描き出されるのは現代アメリカの抱える闇。
退役軍人たちの心のケアや社会復帰の問題を、宗教的な比喩などを用いて淡々と、静かに、アイロニカルに伝えてくるからこそ、より強く戦争というものの愚かさとやるせなさを感じた。

撮影/中村和孝
オスカー・アイザックの“静”の演技の凄みと、こぼれるような色気に注目
たとえそのルールがわからなくとも、ポーカーやブラックジャックのシーンはスタイリッシュで魅力的。ほの暗くシャープでザ・ノワールな画面に満ちる緊張感と、そこに佇(たたず)む虚無をまとったアンニュイなオスカー・アイザックの静の演技の凄みと、こぼれるような色気といったら。 賭け事をする時の冷静で洗練された雰囲気と、相棒のようになったカークに父性のような思いを抱き、自身の中に芽生えた愛情をギャンブル・ブローカーのラ・リンダに不器用にも勇気をもって伝えようとする様子のいじらしさとのギャップに胸を摑(つか)まれた。
現代アメリカの抱える闇を描きつつ愛そのものを肯定
ここまでの人生で犯した罪を前に、己を罰し続けながら生きてきた内省的な男が、降って湧いた贖罪(しょくざい)の機会を前に葛藤しながらも決断を下すストーリーは、まさにポール・シュレイダーらしいもの。 衝撃的な展開は安易なハッピーエンドを提示してはくれないが、だからこそラストシーンには人が人と共に生きること、愛そのものを肯定する姿勢を感じた。 『カード・カウンター』 製作総指揮/マーティン・スコセッシ 監督・脚本/ポール・シュレイダー 出演/オスカー・アイザック ウィレム・デフォー 配給/トランスフォーマー ©2021 Focus Features. A Comcast Company. 【他の記事を読む】⇒シリーズ「宇垣美里の沼落ちシネマ」の一覧はこちら <文/宇垣美里> ⇒この著者は他にこのような記事を書いています【過去記事の一覧】
宇垣美里
’91年、兵庫県生まれ。同志社大学を卒業後、’14年にTBSに入社しアナウンサーとして活躍。’19年3月に退社した後はオスカープロモーションに所属し、テレビやCM出演のほか、執筆業も行うなど幅広く活躍している。