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宇垣美里「暗い時代だからこそ心に沁みる…世界をもうちょっとだけ信じようか」

 元TBSアナウンサーの宇垣美里さん。大のアニメ好きで知られていますが、映画愛が深い一面も。
宇垣美里さん 撮影/中村和孝

撮影/中村和孝

 そんな宇垣さんが映画『古(いにしえ)の王子と3つの花』についての思いを綴ります。
映画『古の王子と3つの花』

映画『古の王子と3つの花』

●作品あらすじ:古代エジプト、古い時代のフランス、トルコという3つの異なる都市と時代を舞台に、自分を信じることで運命を変え幸福を手にする3人の王子のエキゾチックな物語です。本作の日本語吹き替え版では、市川團十郎の長男・市川新之助が声優に初挑戦しています。 『キリクと魔女』『ディリリとパリの時間旅行』などで世界的に鬼才として知られ、ジブリの故・高畑勲監督との親交もある、フランスのアニメーション監督、ミッシェル・オスロの最新作を宇垣さんはどのように見たのでしょうか?(以下、宇垣美里さんの寄稿です。)

うっとりと夢見心地で胸のトキメキが止まらない

映画『古の王子と3つの花』

『古の王子と3つの花』より

 本当に美しいものを見た時、心に満ちる、甘くて温かくてちょっと切ないあの気持ちをなんて呼べばいいのだろう。腹も膨(ふく)れない、暖(だん)もとれやしない。けれど確かにどこかが満たされて、世界をもうちょっとだけ信じようかと思わせてくれるあの気持ち。  ミッシェル・オスロ監督によって語られる御伽噺(おとぎばなし)はまさに至福! 独特の色彩でこの世の鮮やかさを存分に教えてくれるものだから、もううっとりと夢見心地で胸のトキメキが止まらない。  ストーリーテラーによって語られる、古代エジプト・中世フランス・18世紀トルコと3つの時代と場所を舞台にした3人の王子の物語。  各章ごとに手法がちょっと変わっている。恋人との結婚を義母から許してもらうため遠征に出たクシュ王国の王子が、神々の祝福を受けながらその敬虔(けいけん)さによって黒人初のファラオとなる第一章「ファラオ」は、まさに壁画が動いているかのよう。  父親から冷遇されている幼い王子が地下に捕らわれている罪人と心を通わせ、脱獄を助けたことで森へと追われる第二章「美しき野生児」は黒の際立つ切り絵のような描き方。  そしてモロッコ王宮を追われた王子が、逃げ込んだ国で揚げ菓子屋の弟子となったことをきっかけに王女と出会う第三章「バラの王女と揚げ菓子の王子」は、色鮮やかな背景がロマンチックで目を奪われた。

運命を変える信念の御伽噺、どの瞬間を切り取っても抜かりなく美しい

 共通しているのは絵本的な世界観と緻密(ちみつ)な背景、どこまでも抜けの良い透明感のある色の息を呑むような美しさ。王子たちはそれぞれ直面した困難を前に、知恵と勇気で自らの運命を切り開いていく。彼らはその出自によって幸せになったのではなく、信念を持って壁に立ち向かったからこそ、未来を手にすることができた。  普遍的な物語に込められたメッセージはシンプルながら、軽やかで柔らかで、とっても力強い。なんとなく前の見えない、暗い時代だからこそ、この御伽噺たちは私たちの心に沁みる。  それにしてもどの瞬間を切り取っても抜かりなく美しい。コマ送りでポスターにして家に飾りたいくらい。 古の王子と3つの花』 監督/ミッシェル・オスロ 声の出演/オスカル・ルサージュ、クレール・ドゥ・ラリュドゥカン、ディディエ・サンドル 配給/チャイルド・フィルム ©2022 Nord-Ouest Films – StudioO – Les Productions du Ch’timi – Musee du Louvre-Artemis Productions 【他の記事を読む】⇒シリーズ「宇垣美里の沼落ちシネマ」の一覧はこちら <文/宇垣美里> ⇒この著者は他にこのような記事を書いています【過去記事の一覧】
宇垣美里
’91年、兵庫県生まれ。同志社大学を卒業後、’14年にTBSに入社しアナウンサーとして活躍。’19年3月に退社した後はオスカープロモーションに所属し、テレビやCM出演のほか、執筆業も行うなど幅広く活躍している。
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