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宇垣美里「今日は夢を見そう、それもとびっきりに美しい悪夢を」

 元TBSアナウンサーの宇垣美里さん。大のアニメ好きで知られていますが、映画愛が深い一面も。
宇垣美里さん

撮影/中村和孝

 そんな宇垣さんが映画『オオカミの家』についての思いを綴ります。
映画『オオカミの家』

映画『オオカミの家』© Diluvio & Globo Rojo Films, 2018

●作品あらすじ:美しい山々に囲まれた南米、チリ。“助け合って幸せに”をモットーとするドイツ人集落に暮らす美しい娘マリアは、ある日、ブタを逃がしてしまい、きびしい罰に耐えられず集落から脱走します。逃げ込んだ森の中の一軒家でマリアの身に起きる悪夢のような出来事とは…。 本作は、ピノチェト軍事独裁政権下のチリで、元ナチス党員が設立した共同体「コロニア・ディグニダ」にインスパイアされています。そのカルト共同体では数百人ともいわれる少年たちへのリーダーからの性的虐待をはじめとして、拷問、強制労働、洗脳などが行われ続けていました。 この“異形”のストップモーション・アニメーションは、全編カメラが止まることなく、最後まで空間が変容し続け、企画段階を含めると完成までに5年の歳月を費やして作られています。『ミッドサマー』のアリ・アスター監督が一晩に何度も鑑賞し、激賞した“ホラー・フェアリーテイル”を宇垣さんはどのように見たのでしょうか?(以下、宇垣美里さんの寄稿です。)

今日は夢を見そう、それもとびっきりに美しい悪夢を

映画『オオカミの家』

『オオカミの家』© Diluvio & Globo Rojo Films, 2018

 とてつもなく不穏で鮮烈。ワンシーン・ワンカットでずっと同じ家の中を映しているのにも関わらず、絶えず蠢(うごめ)き変化し続ける禍々しいビジュアルに74分間もう目が離せない。なんだか今日は夢を見そう、それもとびっきりに美しい悪夢を。  チリ南部のあるドイツ人集落で暮らす美しい娘・マリアはブタを逃がしてしまった罰のあまりの厳しさに耐え兼ね、集落から逃げ出した。迷い込んだ森の中の一軒家で二匹の子ブタと出会った彼女は一緒に暮らし始めるものの、森の奥から彼女を探すオオカミの声が聞こえ始める。
映画『オオカミの家』

『オオカミの家』© Diluvio & Globo Rojo Films, 2018

 1960年代、軍政権下のチリに実在したコミューン(生活共同体)「コロニア・ディグニダ」の教育映像という体をとっており、オオカミと呼ばれる男の声の主であろうパウル・シェーファーが何をしでかした人なのか、コロニアでは何が行われていたのか、概要だけでも調べておくとさらに恐怖が増す。

破壊と再生、二次元と三次元を行き来する、禍々しく不気味な悪夢

 なんといっても独特なのが、見たこともないような斬新なストップモーションアニメの表現。素材の質感が生々しい部屋の壁や人形の上に塗り重ねられた姿絵がドロドロと溶けるように破壊と再生を繰り返し、ある時は手描き、ある時は紙やクレイと、様々な素材でもって二次元から三次元を自由自在に行き来する様は圧巻。
映画『オオカミの家』

『オオカミの家』© Diluvio & Globo Rojo Films, 2018

 終始流れ続ける虫の羽音や吐息のような不気味な音も相まって、逃げ出した後も少女の心を支配し続けるコロニアの恐ろしさが存分に伝わってくる。
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『ミッド・サマー』の監督が参加、不気味さと残酷さ
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