カンヌ2冠の衝撃作『怪物』で安藤サクラを超える“ゾッとする凄み”を放った名女優
6月2日より映画『怪物』が公開されている。第76回カンヌ国際映画祭で脚本賞とクィア・パルム賞を受賞するなど高い評価を得た本作、結論から言えば、『万引き家族』の是枝裕和監督と、『花束みたいな恋をした』の坂元裕二による脚本というタッグが、後述する相乗効果を引き出したと心から思える傑作だった。
2023年3月28日に亡くなった坂本龍一による、ピアノの一音一音が鮮烈に響く音楽も「ここぞ」という場面で効いてくるため、ぜひ美しい映像と共に作品に「浸る」ことができる劇場で観てほしいと心から願う。
そして、本作は「なるべく予備知識を入れずに観たほうが良い」ことを告げておきたい。物語の特徴や、恐ろしさや感動の理由を具体的に語ろうとすると、ネタバレかそれに近い言及になってしまいかねないのだ。
序盤から「謎」が積み重なっていき、やがて真相がじわじわと、時にははっきりとわかるという、ミステリー的な魅力もふんだん。何より、良い意味で不可解な状況が続くからこその、「どこに連れて行かれるのかわからない」翻弄される面白さを堪能してほしい。
有名な漫画や小説の映像化作品が多い中で、オリジナル企画の映画だからこそ内容をまったく知らずに観られること自体が貴重だとも思える。
カンヌ映画祭での話題も喜ばしいが、それすらもできれば知らずに先に本編を観てほしいくらいだ(もちろん、知って観ても良い)。そのため、ここでは中盤以降の物語には触れずに、魅力を紹介していきたい。
物語の舞台は大きな湖のある郊外の町。シングルマザーの麦野早織(安藤サクラ)は、不可解な行動を繰り返す11歳になる息子の湊(黒川想矢)から、担任教師の保利道敏(永山瑛太)に「湊の脳は豚の脳と入れ替えられた」と、ひどい言葉を浴びせられたことを聞く。翌日、早織は伏見校長(田中裕子)に、湊が保利からモラハラを受けた上に殴られたと訴えるのだが……。
序盤の流れだけを見ると、学校側の問題への隠蔽体質、というより「謝罪はするものの言葉をはぐらかしてばかりで、問題と向き合おうとしない」現実にもある体制の浅ましさを描く物語のように“思える”ことだろう。
この校長は目が死んでおり、判で押したような同じ言葉を繰り返すばかり。他の教頭も学年主任も、そして担任の保利先生も、なんとも不遜な対応をするばかりなので、観客も(子を持つ親であればさらに)良い意味でイライラできることは間違いない。
そして、この映画は、その隠蔽体質(?)の学校側をただ糾弾して終わりになるような、単純な内容ではまったくない。
そこからの展開こそがネタバレ厳禁であり、物語がどこに向かうかわからない様を、やはり楽しんでほしい。
なるべく予備知識なく観てほしい理由がある

隠蔽体質の浅ましさを描く映画……ではない?

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【公開情報】
映画『怪物』
6月2日(金)全国ロードショー
©2023「怪物」製作委員会
配給:東宝 ギャガ
映画『怪物』
6月2日(金)全国ロードショー
©2023「怪物」製作委員会
配給:東宝 ギャガ