上の子が中学に入ったころ、今度はカスミさんに恋が降ってきた。キャリアアップのため受講したセミナーで知り合った同世代の男性で、セミナー修了後も連絡を取り合い、徐々に親しくなっていった。
「たまに食事するだけの関係だったのに、ある日、どうしても別れがたくなって。
それからお互いに恋しさが募って、毎日帰りがけに10分でもいいから会いたいという気持ちでした。代休をとって彼と1日中ホテルにいたこともあります。なんとか家庭には支障のないようにしたつもりだったけど、今度は私が家事育児で約束違反をしました」
恋しくてたまらず、夜中にリビングで泣いていたこともある。彼とはいっそ駆け落ちしようかという話にまでなったが、お互いに家庭を捨てることはできないと「正気に」戻った。そんな状態だから、もちろん夫も不信感を抱く。
「早く帰ると言いながら午前様になったことがあるんです。さすがに夫が怒りました。子どもたちもひとりで留守番できる年齢にはなっているけど、何かあったらどうするんだ、と。私は私で責められたことが悔しくて、自分だってとかつての夫の浮気の件を持ち出して大げんか。今度は私が家を飛び出してウィークリーマンションで10日ほど過ごしました」
ウィークリーマンションには毎日彼が来てくれた。だが、
彼が泊まっていったのは1日だけ。これが不倫なんだ、とカスミさんは身にしみた。
「家に戻ると上の息子が、『夫婦ゲンカもいいかげんにしてくれよな』って。子どもたちには心から謝りました。夫とは冷戦状態がずっと続きましたね。もう離婚したほうがいいのかなと思っていた」

不倫の彼とは一時期ほどの情熱ではなくなったが、まだお互いに恋しているし相手を必要としていた。家族で旅行をしても、夫と子どもたち、自分と子どもたちは意思疎通ができているが、夫と自分は心が離れている。そんな気がして楽しめない
。いっそ離婚して子どもと3人で暮らしたほうがいいかもしれない。カスミさんの気持ちは徐々にそちらに傾いていく。ところが…。
「上の子が高校の入試に失敗してしまったんですよ。荒れて暴れて手がつけられなくなった。複雑な気持ちでいた夫と私のことを感じ取っていたんでしょうね。やり場のない気持ちを私たちにぶつけてきた。『こんなニセモノの家族なんて壊しちまえよ』と
息子が言って夫に殴りかかったとき、夫はその手をバシッと受け止めて『愛情はニセモノじゃない』と言いきったんです」
息子はハッとしたようだった。夫は親だって完全、完璧ではない。いろいろ迷うし自分の人生で悩みもする。だけど「オレもおかあさんも、いつだっておまえたちを全力で愛してきた」と夫は力説した。
「高校受験を失敗したからって人生を失敗したわけではない。いくらだっていろいろな道がある、と私も必死に説得しました。あのころは毎日怒濤の日々でした。親対子どもたちのバトルがすさまじかった」
結果的に、息子は補欠繰り上がりでなんとか某私立校に入れたのだが、それでも親子バトルは終わらない。ついに春休み、夫は息子とふたり旅に出た。