「私は下の息子と過ごしました。夫は毎日、上の子の様子を知らせてくれて」
気づいたら、夫への信頼感がいつになく増していたという。
「2歳とはいえ年下だし、正直いって出世するようなタイプでもない。だから心のどこかで私は夫を下に見ていたのかもしれません。でも子どもに一大事があったとき、まっすぐ向き合ったのは私より夫だった」
夫と上の子が旅から帰ってきたとき、カスミさんは心から「お帰り」と言った。息子ははにかんだような表情を浮かべていたが、以来、親を罵倒するようなことはなくなった。旅の間、息子と夫の間でどういう会話がなされたのか詳細は知らない。
「子はかすがい、という言い方もできるかもしれないけど、
あの時期、私は夫を再評価せざるを得なかった。いざというとき正しい判断ができる人なんだ、と。今までいろいろごめんね、と私は夫に言いました。夫はこちらこそごめん、と。『いろいろあるけど、とりあえずあと1年、夫婦をやってみない?』と夫が言い出したんです。1年ごとに見直していくのもいいんじゃないかって」
お互いの不倫については触れなかった。そこを突いても何にもならないとお互いにわかっているからだ。今の関係、これからのことを10年ぶりくらいゆっくり話した。あれから2年、カスミさんの不倫も終わった。
「恋と家庭を天秤にかけたわけじゃないんです。恋はいつか終わるものなんですよ。それだけのことだと思う」
夫も自分も、また恋をするかもしれない。そのときはそのときで、また対処していくしかない。結局、夫婦関係もナマモノなのだ。常に変化し続けていく。
「それがわかっただけでもよかったのかもしれない」
まだ再生途中だから、とカスミさんはクスッと笑った。
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夫婦再生物語 Vol.9―
<文/亀山早苗>
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