――第3話冒頭、飲み物が底をつく中、ついに雨が降ります。乗客たちは恵みの雨に歓喜します。一方、直哉と優斗にとってはまるで関係性を洗い流すような浄化の雨のように映りました。物語の次なる展開に向けた箸休めとしてとても効果的な場面です。森の中の赤楚さんの表情、タンクトップ姿で静かに雨を浴びる山田さんの静かな佇まい。紛れもない名場面だと思います。脚本から映像になって見たとき、どう思いましたか?
金子:第3話は、お二人の特徴的なお芝居が本当によく映像に出ていると思いました。これはあくまで私の個人的な捉え方ですが、山田さんからは『生まれながらに戸惑っている』『生きていることに傷ついている』というたたずまいを感じます。それはある種の凄みであり、傷を晒すような演技が抜群です。今回の直哉役は、この山田さんの特性を生かすように作り上げたつもりです。
一方、赤楚さんは、『生まれながらに輝いている』『生きる喜びに満ちている』方のように思いました。あの目の輝き、光が差すように訴えかける感じ。第3話の特にラストシーンは、私たち制作陣が直哉と優斗に託したもの、そして山田さんと赤楚さんに感じているものが結実した回だなと思いました。
――いやぁ、山田さんと赤楚さんの表情がほんとうに素晴らしかったです。
金子:山田さんは、若手俳優の中で異質な存在です。単に見栄えがいいとか、そういう次元ではない。身にまとっている詩情感、存在感が、人々の胸を打つのではないかなと思います。そして赤楚さんは、一瞬一瞬、目に焼きつくような表情をこれでもかと繰り出してくださいます。
山田さん、赤楚さん、畑野紗枝役の上白石萌歌さん、そして他の乗客の方たちの煌めきを描くこの作品に関われたことは、私の誇りでもあります。
――山田さんの魅力がこれでもかと放たれつつ、本作に感じる“赤楚衛二感’’もたまりません。第2話、空を見上げた優斗がお好み焼きが食べたいと言いますが、あれは『舞いあがれ!』(NHK総合、2022~2023年)のお好み焼き屋の息子役を思い出すような眼差しだなと。朝ドラ放送後のちょっとした目配せなのかと思いましたが。
金子:『ペンディングトレイン』はかなり前から脚本を書いていたので、『舞いあがれ!』の設定をあとから知りました。なのでそういう意図はないです、すみません(笑)。
でもそれだけ多くの作品に立て続けに出演してこられて、いつでもあの清涼感と共感性を保ち続ける赤楚さんは、本当に次世代を担う役者さんになられるのだろうなと思います。「共感性」というのは、天賦の才だと思いますし、スターになるべくしてなる人だけが持つ資質だと思うので。
――他の俳優陣についても感想を教えてください。
金子:まず教授役の間宮祥太朗さん、6号車のウエンツ瑛二さん、萩原聖人さんなど、実力派を結集させた宮﨑プロデューサーの卓越したキャスティング力には驚くばかりです。
――間宮さんの登場は不思議な存在感でした。
金子:物語を締める、底知れぬ力を感じますよね。そして電車の乗客たちについては車両に乗り合わせても違和感がなく、リアリティとファンタジーが両立する方をイメージしていました。
すぐ隣にいそうでいない紗枝役の上白石萌歌さん、あれだけのクセの強い玲奈役を本当に魅力的に演じてくださった古川琴音さん。大学院生ならではの知識を活かす加藤祥大役の井之脇海さんは、説明する台詞が多いのに、ナチュラルではっきり聞こえる。そしてとにかくチャーミングな俳優さんです。
――井之脇さんは芸歴が長いですね。
金子:米澤大地役の藤原丈一郎さんと和気あいあい、やられていたようです。
その藤原さんは、普段、アイドルグループでご活躍されているのに電車に乗られてそうな親近感がありますよね。私自身も米ちゃんの陽気なオーラに何度も救われました。本当に素敵なコンビです。
――なるほど、そこのバディ愛も芽生えて。
金子:もしかしたら、最大のハッピーエンドは加藤&米澤ではないかという説があるので(笑)。それぐらい幸せな、もうひと組のバディになったと思います。