『ペンディングトレイン』脚本家が明かす“山田×赤楚バディ”の撮影ウラ「びっくりするほど仲良くなっていて…」
「そっけないくらいで僕らはちょうど良いんじゃない?」
前編に続き、後編では圧倒的バディ感を創作した物語の秘密(仕掛け)を探る。
――本作は、カリスマ美容師の萱島直哉と消防士の白浜優斗によるいわゆる“バディモノ”です。金子さんが、男性同士のバディ・ドラマを書いたことが、新鮮に思いました。脚本を書く上でこれまでと違う点はありましたか?
金子:オリジナル脚本を書くときには、何年何月何日生まれ、どこどこ育ちなど、毎回一人ひとり履歴書を作ります。物語は「誰かと誰かの話」ですから今回もいつもと同じ作業でした。でも男性バディの関係性では、心の奥と奥がどう共鳴するのかをより深く探りました。
優斗はこの顔の下に何を隠して生きてるんだろう。直哉の心の奥にはどんな傷があるんだろう。それが何話のどんな瞬間に共鳴し、噴出するのか。その意味ではミステリーの構築に似た作り方かもしれません。
――直哉と優斗の反目し合うキャラクター性が鮮やかです。第1話、命からがら救助する場面と第2話、崖を登る場面で手を握り合う瞬間があり、お互いにキュンとなるバディの関係性が描かれるのかと思いきや、そういうわけでもなく。
金子:この時点でお互いのことをどのくらい理解しているのか、何を知ってどう心が動くのか。そういうドラマにしたいと宮﨑プロデューサーと常に話し合っていました。
激しいアクションやサバイバル、キュンとなる表層的な現象が少なく、じれったく感じた視聴者の方もいらっしゃったかもしれません。しかしやはりここは、山田さんと赤楚さんの味のあるお芝居を活かしたいと思いました。
何よりこの作品は、直哉と優斗の心の奥への旅です。全10話を通じて辿り着くゴールを当初から考えていました。第3話で優斗から「立派だよ」と声をかけられて直哉の気持ちが溢れ、逆に優斗が立派なだけではない素の顔を第4話で見せる。そうした心の揺れ動きを繰り返しながら、二人が本物のバディになるまでの軌跡を描いています。
――直哉と優斗の掛け合いによってキャラクターが立ち上がり、思わぬ化学変化がありましたか?
金子:先日、久しぶりに現場に行きました。すると山田さんと赤楚さんがびっくりするくらい仲良くなっていて驚きました(笑)。それぞれご自身の中にある「直哉」「優斗」をお互いの中に見出していたようです。
優斗にあって直哉にないもの、直哉にあって優斗にないものをお互い共有していらっしゃる。ドラマの中のふたりもそうですが、リアルな化学反応を見せて頂きました。まるでドキュメンタリーのような結末です。
――現場での素晴らしいエピソードですね。「Official髭男dism」が担当した主題歌「TATTOO」もこの熱いバディ感を表現していて面白いなと思います。1番のサビに印象的なフレーズがあります。「そっけないくらいで僕らはちょうど良いんじゃない?」という歌詞は、まさに直哉と優斗の関係性そのものを言い当てていますよね。
金子:本当に、天才のお仕事です。「助けるよ 助けてよ my buddy」は、最終回までの道のりを示唆しているかのようなフレーズです。
――ドラマの内容とこんなに連動している主題歌も珍しいなと思いました。
金子:「愛 ジョーク それとたまにキツめのネガティブ」の部分、これは完璧に直哉のことを歌っているのではないか。思わずドキッとしました(笑)。
ヴォーカルの藤原聡さんは、物語からその人物の輪郭を引き出すことがすごくお上手です。ご自分の頭の中でも人物像を思い描き、その人の人生に寄り添う。だからこそ「Official髭男dism」さんの主題歌は、輝くのだと思います。
『ペンディングトレイン-8時23分、明日 君と』(TBS系、毎週金曜日よる10時放送、以下、『ペンディングトレイン』)の主題歌『TATOO』(Official髭男dism)サビのフレーズだが、本作で描かれる人間関係を見事に言い当てている。
サブタイトル『明日 君と』が示すように、カリスマ美容師・萱島直哉(山田裕貴)と正義に厚い消防士・白浜優斗(赤楚衛二)が、全編を通じて共闘し、前を向いて躍動する。直哉が横糸なら優斗が縦糸となり、つむがれる“名バディ”の素晴らしさとは。
今回は「イケメンと映画」をこよなく愛する筆者・加賀谷健が、脚本家・金子ありささんにロングインタビィーを行った。キャスティングにまつわる秘話を明かしてくれた