「このままでは二人とも溺れてしまう。いや、むしろ下にいる自分の方がやばい状況」と考えた山縣さんは、勇気を出して“ある行動”に出ます。
「海中に沈められているときに、足元が尖った岩場に当たっていたんです。でも、底に立とうと思うと、深くて体全部が沈んでしまう。ところどころにある岩は、先端が鋭くなっていたけれど、長いものは結構上に細長く伸びていたんですよ。『
岩場のどこかの先端にうまく立つことができれば、一瞬でも空気を吸えるかもしれない』と思ったんです。
そのためには、海中の状態を見なきゃいけない。しがみついてくる友人には申し訳ないけれど、
あえて自分で深くもぐりました」
その瞬間、驚いた友人は、思わずしがみついていた両手を離しました。
「まさか僕が海に潜っていくとは思わなかったんでしょうね(笑)。いや、本当は笑えないんだけど、そのおかげで僕は少し海面に浮上できて、息を吸えた。水中の岩場の状態も見れたので、足が付く場所に少しずつ移動して、友人を落ち着かせながら引き離しました」
心が異常に穏やかになり、それがめちゃくちゃ怖かった
パニックになってもおかしくない状況で、そこまで冷静に行動できるとは。
「海中に沈められながらも
『じいちゃんの言ってたのはこういうことか……』と、どこか冷静な自分もいましたね。もっとパニックになるかと思ったのですが、本当にヤバい状況になると、『あ、ごめん無理かも』『あー……なんか、みんなごめんなさい』って、心が凪のような、嵐の前の静けさみたいな、異常に穏やかな状態になりました。
あとから考えると、それがめちゃくちゃ怖かった。『溺れている人は、絶対に一人で助けようとするな』という言葉の意味が分かりました」
その後は、ほかの友人たちが近くにいた大人たちを呼びに行き、安全な砂浜まで誘導されたそうです。自身のこの経験から、「
どんなに浅い海や川でも、ライフジャケットや、浮力のあるものを欠かさず持っていくようになった」という山縣さん。
入念な事前の準備。そして、呼吸を優先してあおむけで力を抜く「ういてまて」をはじめとする、事故が起きた際の動き方のシミュレーション。水難事故の二次被害を避けるために、できることを改めて考えてみたいと思います。
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<取材・文/赤山ひかる イラスト/ズズズ
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赤山ひかる
奇想天外な体験談、業界の裏話や、社会問題などを取材する女性ライター。週刊誌やWebサイトに寄稿している。元芸能・張り込み班。これまでの累計取材人数は1万人を超える。無類の猫好き。