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20代後半までスナックで働いていた41歳女優がかもしだす“湿り気”とは

ユニークな下積み時代

 尾野の演技は、なぜこれほど観客の心をとらえるのか。秘密はどうも下積み時代にありそうだ。これがなかなかユニーク。奈良県出身の彼女は、14歳の頃、当時通っていた中学校でロケハン中の河瀨直美監督に見出される。  結果的にカンヌ映画祭で史上最年少となるカメラ・ドール賞を河瀬監督が受賞した『萌の朱雀』(1997年)で映画主演デビューを果たした。高校卒業を機に上京。2021年に『おしゃれイズム』(日本テレビ、5月16日放送回)に出演したときには、27歳の頃までスナックで働いていたことを吐露した。  なるほど、スナックか。別番組でも客からもらった1万円で1ヶ月節約暮らしをしていたことを明かしているが、彼女の演技が自ずと帯びる湿り気みたいなものは、こうした経歴に由来しているのかもしれない。

“尾野真千子らしさ”とは

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 結構長い間スナックで働いていたことをケロッと言ってしまえるところも、いかにも尾野らしい。  ドラマ『東京タワー~オカンとボクと、時々、オトン~』(フジテレビ、2007年)あたりから存在感を増し、『カーネーション』(NHK、2011年)ではついに朝ドラのヒロインに抜擢された。  どこか湿り気があるが、基本は可憐。それが他の俳優にはない尾野真千子感なのだが、ひょうひょうとしたところもチャーミングに映る。FJネクストのコマーシャル作品「答えと問い」篇の尾野はすごい。  答えと問いについて哲学的な問答が繰り広げられる。「答えをください」といざ核心部分に迫られると、「私も知らん」とあっさり。人を食ったような空気感に、思わず唖然としてしまうこの不思議さ。尾野真千子にしか絶対に演じられない。  さらにDisney +で2022年に配信され、今年10月期の新ドラマとしても放送されている『すべて忘れてしまうから』は、そうした尾野真千子らしさがこれでもかと発揮されている。  主演の阿部寛にはぴったりの適役である小説家に対して、尾野は彼の過去に関係する謎の女性をミステリアスに演じている。
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