「魔法の力が戻らないほうが良かった」と思ってしまう理由
そして、賛否が分かれるのが結末だ。魔法の力は失われ、家はバラバラになってしまうが、これまでマドリガル家に助けてもらっていた町の人々と力を合わせて、完璧ではないものの新しい家を建てる。
そして、ミラベルが家族に促されドアノブを取り付けると、魔法の力はよみがえったのだ。
ここで「魔法の力が戻らないほうが良かった」と感じる人は多い。ミラベルの祖母であるアブエラは、ギフトを持たないミラベルにつらくあたってしまっただけでなく、ミラベル以外の家族にもギフトを至上とした価値観でがんじがらめにしていたことに気づかされ、深く反省する。
ある種の「家父長制」の問題を描いた上で、その問題の大元でもあった魔法が戻ってしまっては、せっかくの教訓が台無しだったのではないか、という意見は正当なものだ。
ただ、「ミラベルのギフトは、愛する家族を守ること」だと思えば、最後に魔法が戻ることも納得できるとも思う。
彼女が家から魔法が失われないように奮闘したことは言うまでもなく、意思を持った家をカシータと呼び優しく話しかけていて、何より家が崩れ去る中であっても蝋燭の火を守ろうとしていたこともあった。
そのミラベルの、誰よりも強い家と家族への思いやりや共感力を、最後に「家を元通りにする魔法」という、目にみえる形でストレートに示したとも言えるのだ。
また、家族それぞれのギフトは、それ自体がただ忌むべきものではないし、その人らしさを示す個性とも言える。
魔法は過去にすべてを失ったアブエラがやっと手にした奇跡でもあるし、ミラベルも「おばあちゃんがいたから家族になれた」とも肯定している。家族の中でわだかまりが解けた今、苦しむ原因にもなっていたギフト(個性)も、これからはそれぞれがより良く付き合っていけるようにも思える。