
ハルキ視点になると、途端に夏生の存在が揺らぎ始める。深愛と夏生の関係に終止符を打ちたいハルキが夏生に直接迫る。頭を抱えながら、大人の事情として説明しようとする夏生をさらにつめる。
ハルキが「それでも道を踏み外さないのが、大人なんじゃないの」と言うと夏生はしらを切るどころか、逆ギレぎみに切り返す。
「じゃあ俺は子どもだな。お前と同じ間違えだらけの子どもだ」。聞いて呆れる。一方で、この切り返しによって、夏生はハルキと深愛を奪い合うライバルになったわけだ。
父親としての威厳は砕け、息子と同格になる。しかもそれをまったく恥じることなく、むしろ迎え討つ気でいる。深愛のことで干渉してくるハルキに対して、夏生はさらに「好きなの?」と嫌味っぽく反撃する。

とはいえ、夏生の心はすでに深愛から離れつつある。ハルキが痛烈に指摘したように、日々のストレスを解消するためのはけ口にする一方で、深愛の献身的な態度に夏生は恐怖すら抱いている。
彼は思う。もし彼女が家庭を捨てて自分と一緒になろうと迫ってくるような悪女ならと。それならそれで彼女との関係性を綺麗さっぱり断ち切ることができるのになと考えるのだ。
そう考える直前にはまた彼女をホテルに誘っている。ほんと、どの口が言ってるんだ。夏生への同情はもやは無用だ。ここは俄然、ハルキの純愛を心から応援したいと思う。