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NHK『大奥』、見る者にもエールを送る物語の裏で、細部にまで美意識が宿っていたポイントとは

家定の懐中時計は、瀧山のもとで天璋院と時を刻んでいた

大奥(C)NHK

大奥(C)NHK

二人が揃うことで『大奥』の象徴と言える“お万の方”になると、原作者のよしながふみも認める瀧山と天璋院が、さらに強固なバディに映ったのも、実写版の魅力だった。 最期まで大奥と共にあろうとした瀧山を救ったのは、原作では部屋子の仲野(中川翼)だったが、ドラマでは家定の形見である懐中時計の違和感をきっかけに、天璋院が気づいた。瀧山と天璋院の絆を感じると同時に、「ともに時を刻もう」と話していた家定の意思も、瀧山の懐で、天璋院とともに刻まれていたのだと思うとなんだか救われる。そして家定を看取った仲野の兄・黒木源一郎(宮野真守)から話を聞いた天璋院は、家定とお腹の子、二人の分まで今生を楽しんでいくことを心に決め、家定の懐中時計も役目を終えた。 ラストは明治4年。希望を感じさせる海原での船上だった。そこには日本初の女子留学生の一行がおり、まだ6つの津田梅子(宮崎莉里沙)の姿もあった。物語は、天璋院改め胤篤が「この国はかつて、代々、女子(おなご)が将軍の座についておったのですよ」と秘密を明かして、幕を閉じた。 この出会いの際、「あなたはきっと将来大きな国を動かすようなことをなさると、お父上は見込まれたのですね」と優しく声をかけた胤篤に、梅は「いいえ、父は、そういう殿方の良い妻になるためだって」と返した。 ここで胤篤は少女に言った。「大きなことをなさるのは、きっとあなたご自身かと。きっとそうなります」と。津田梅子は実在の偉人だが、この言葉は、私たちやこれからの日本に向けられたもののようにも感じる。「大きなこと」でなくてもいい。きっと根幹になるのは、大奥を通してともいえる「私が私らしく」、「己の翼で飛べるように」との願い。その想いが物語を超えて伝わってくるような美しいドラマだった。 <文/望月ふみ>
望月ふみ
70年代生まれのライター。ケーブルテレビガイド誌の編集を経てフリーランスに。映画系を軸にエンタメネタを執筆。現在はインタビューを中心に活動中。@mochi_fumi
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