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北野武監督の大ヒット新作が描いた“男同士の同性愛”。加瀬亮の濡れ場よりもスゴかったのは

お笑いとしか思えない設定

『首』 ここで絆という一言を持ち出すこともできそうだが、そうした男同士の絆は同時に儚く、もろい。北野監督はそこを重点的に描く。  織田信長(加瀬亮)と森蘭丸(寛一郎)の結構エグくてディープな男色関係も特筆すべきだが、本作ではそれ以上にまず織田信長に謀反(むほん)を起こした荒木村重(遠藤憲一)と明智光秀(西島秀俊)との関係性が重要だろう。  でもこれが予想以上に間が抜けているというのか、お笑いとしか思えないのだ。明智光秀を演じる西島秀俊は、何とも精悍な表情で、色っぽさもある。一方、荒木村重役の遠藤憲一は、ありえないくらいムッツリに見えてしまう……。  光秀と村重が実は惚れた腫れたの男色という設定なのだが、エンケンさんには失礼だけどこれはちょっと無理があるなと感じたのは筆者だけではないだろう。  北野監督はもちろんこうした観客の反応を明らかに意図している。重視しながらも戯れ、笑い飛ばす。それが北野流の描き方である。

男色があぶり出す“脆さ”

『首』 遠藤が西島に甘えるような眼差しを度々送る。何だかむず痒い。一応戦国の世ののっぴきならない関係性だから、笑っていいものかと思うのだが、明らかに遠藤が逆に笑わせてくる。  命乞いのため、信長に心を許すふりをした光秀に対して、村重が嫉妬する。「俺妬くぞ」と遠藤が真顔で言う瞬間は、思わず吹きそうになった。おそらく、撮影中の北野監督もこの場面の演技を見ながら、ケラケラしていたのでは。  光秀を鼓舞して本能寺の変までこぎつけるのだが、土壇場になって光秀は村重を切り捨てる。そのとき、村重は捨てられた子犬みたいな顔して「絆」の一文字を発する。これが本作の男色があぶり出す脆(もろ)さなのだ。
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「殿、お逃げください」の意味合い
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