
前作では、野村周平扮する夫・奥田大輔が敏腕広告マンだった。広告業界は確かに精神を蝕むくらいの激務だが、それが家庭内での暴力を許す理由にはならない。
妻・茜(馬場ふみか)に対して、帰ってくるなりいきなり衝撃的な殴打をくらわせる。奥田家がおぞましい暴君による、あらゆるハラスメントの温床になっていた。
その点、日野家はまだ平穏には見える。でも体育会系広告マンvs神経質な編集者の図式で考えていくと、いやこれはどっちもどっちだなと思う。透は別に暴力を振るうわけではないし、声を荒げたりもしない。ただ、それだけ内に悪いものを溜め込んでいる可能性がある。
それがある瞬間に噴出すれば、大輔の暴力よりもっと破壊力があるかもしれない。見ているようで、自分のこと以外は、何も見ていない人。クールでカッコいい大人のようで、実は自分が一番子ども。
第1話ラスト、極度のアレルギーをもつ息子を美咲の留守中だけ子守をする透だったが、まったく行き届かない。
外出中のバス。子ども部屋のカメラ映像で、息子の異変を見た美咲が駆けつける。透がテーブルに置いたクッキーを食べたことが原因にもかかわらず、何の対処をしようともしない。美咲が責め立てると、透は、仕事を理由に我関せず。逆ギレする様子はほんとうに子どもみたい。

「生きづらいじゃないですか、今の社会って」
透が昼の情報番組に出演した透が、ヒット漫画の企画について司会者に聞かれ、答える。いかにも透らしい。大輔もそうだったが、ふたりともとにかく外面だけはいい。
目に見えて外面男の大輔はまだ可愛い。透は言葉を扱う人間だから、ちょっと物事を斜めから見て、クールな感じを漂わせるのがクセ強というか、悪質ですらある。
ほんとうのところ、この人は何も考えていないのだ。彼の言葉をすこし注意して聞いてみる。結婚前、漫画家を目指した美咲が、最初に原稿を見せた相手が透だった。そのとき彼は言った。
「繊細な心理描写がグッときました…」
ほらきた。透はやたらと人間性や心理に関連したワードを口にする。職業柄でもあるが、これは一方で、核心に迫る一歩手前でうやむやにしようとする抽象化に他ならない。
ある意味それにだまされた美咲は漫画家の夢を諦め、家庭に入ることになった。しかも、うわべだけの言葉と取り繕われた透の人間性は、例えば、息子を可愛がる不登校の少年を退けようとするなど、極めて排他的なものなのではないか。