俊平と古谷、森の3人が訪ねた場所は、町工場。音楽になど理解がない父親がまったく取り合ってくれない。それでもなんとか会わせてもらうと、作業着姿のその人、羽野蓮(佐藤緋美)がいる。
頭には白タオルを巻いている。ほんとうに天才チェリストだったのか。俊平はCDを取り出してアルバム内容を褒めるが、蓮は全然嬉しそうではない。むしろはた迷惑だという感じ。
仕事に戻ると言ってすぐに席を立ち上がるが、俊平にバッハの演奏を特に絶賛され、一瞬足をとめる。薄暗い工場の中、蓮の表情を外光が照らす。何とも透き通った視線と佇まい。
日本一の佇まい俳優に他ならない西島秀俊を前に、これだけ凛としていられる才能ってなんなの!?
いやいや、まじでこの人誰なんだ? オーケストラ団員全員を俳優でキャスティングするとリアリティが足りないので、何人かほんとにプロの奏者をエキストラで混ぜておくのが、クラシック音楽ドラマあるある。
羽野蓮役の俳優は、これまで他作品で見た記憶がない。もしかしてプロの奏者がエキストラではなく俳優に昇格してしまったとか? なわけないよな……。と、少々混乱するくらいの佇まい。その理由がわからない。
俊平は再び工場を訪れ、持参した鍵盤ハーモニカとチェロでバッハの「無伴奏チェロ組曲」第6番を演奏する。
チェロを奏でる姿は、他のどの俳優よりも楽器奏者として相当様になっている。肩のゆるやかなライン。左指の運び。弓の動き。すべてがまとまっている。やっぱりプロなのかしら。