子どもが亡くなったあとの夫婦の空間は、張り詰めた緊張感が悲しみに満ちていて、俳優ふたりのうまさが際立つと同時に、夫婦それぞれの気持ちの齟齬(そご)が大きくなっていくことが静かに描かれていた。時間がたって、美咲がようやく日常生活を少しずつ送れるようになったとき、透が
「おいしいドーナツを買ってきた」と帰宅するシーンがある。

微笑みながら「お帰り」と言った美咲は、その一言を聞いて、冷たく
「優ちゃん、ドーナツ食べられないから」と言い捨てる。アレルギー持ちの息子が食べられなかったドーナツを買ってくる無神経さを無言のうちに責める妻、それを聞いて「そうだな」とドーナツの箱をいきなりゴミ箱に捨てる夫。妻に食べさせようと買ってきたが、妻のすべての価値観の基準は今も失った息子にあると気づかされる場面だ。
Season1は夫のモラハラが刺激的だったがゆえに物語も派手に進んだが、今回は非常にシリアスであり、それゆえに人物の心理を丁寧に追い、深掘りしていると感じさせられる。3話に至るまでに、美咲の絶望や心の揺れがしっかりと伝わってくるので、観ている側としては感情移入がよりしやすくなっている。
ほとんど最終回までの脚本が上がってからクランクイン
倉地さんは小学生のころからドラマが大好きだったという。
「『踊る大捜査線』とか『やまとなでしこ』『ビューティフルライフ』など、キラキラしたドラマを観て育って夢とか希望をもらってきたんです。だから自分がドラマを作る側になったとき、ほんの30分でもいい、
つらいことを抱えている人がひととき現実を忘れてドラマに入り込んでくれたらいいなと思っています」
そのためにもドラマを作る段階では、ほとんど最終回までの脚本が上がってからクランクインする。最終ゴールが見えていれば俳優も演じやすいし、演出もしやすいからだ。

小学生のころからドラマが大好きだったという倉地さん
「脚本を書いた上村さんが監督もしているので、長く議論させていただいている分、共通認識ができています。出てくるエピソードに関してはいろいろな人たちと話して、こんな夫は嫌だねとか、ここまでいくと復讐したくなるよねとか雑談ベースでたくさん会話を交わします」
脚本・監督の上村奈帆さんについては「言葉に対して思慮深い人」「キャラクター作り、間や行間、背景の掘り下げ方も深い」と、厚い信頼を寄せる。
「どうしても今の時代、刺激の多いドラマが求められるんですが、上村さんとは『悪い人のいないドラマを作りたい』という話をよくしています。視聴者にうけるかどうかはわかりませんが、いつか今とはまったく違うアプローチで“とてつもなく優しいドラマ”が作ってみたいですね」