「すべてが終わったら、ママも優ちゃんのところへ行くからね」
彼女の目的は何なのだろう、夫に復讐して楽しいのだろうかと観ている側に疑問が生じたころ、こんなシーンが差し挟まれた。
復讐のため出かける彼女が、息子の遺影の前に座ってこう言うのだ。
「すべてが終わったら、ママも優ちゃんのところへ行くからね」
彼女の覚悟がそう決まっているのなら、がんばれ、もっとひどいことを仕返してやれ、と思わず応援したくなる。ドラマの展開の妙だろう。
また、このドラマでは、「ごく普通の人たちがおりなす、ごく普通の日常生活」がときどき挿入される。近所の主婦たちが立ち話をしているところ、女子高生が連れ立って歩いているところ、公園で遊ぶ子どもたち、帰宅のために駅に向かう社会人たち。こうしたありふれた日常を見せることで、日常を失った美咲の気持ちが伝わってくる。
夫婦の気持ちはすれ違い続ける。
沈んでいる美咲を喜ばせようと、おいしいドーナツを買ってきた透。だが美咲は、「優ちゃん、それ食べられないから」とにべもなく拒絶する。アレルギーだった息子の目線で生きている妻に夫は愕然(がくぜん)としながらも、「そうだな」と箱ごとゴミ箱に捨ててしまう。
息子のことを忘れてしまったのかと無言のうちに責めるような言動をとってしまう妻、そして前に進めないことに苛立つ夫。
美咲は運転免許をとりたいと夫に伝える。免許なんかとらなくていい、用があるなら自分が車を出すからと言う夫。
「時間が合えば」と言う夫に、妻はふっと冷笑し、「合ったことなんてないから」とつぶやく。なんか絡んでくるね、確かに暇じゃないよ、オレのスケジュール見る? 夫もそうやって妻に絡んでいく。
ふたりとも口調は静かなのだが、お互いの苛立ちがどうにもならないほど空中でこんがらがっていくのが視聴者には見える。
そして夫が社運をかけた仕事の日。妻はその仕事をめちゃくちゃにするような仕掛けを、「仮面さん」の指示のもと、やりとげる。その帰り道、美咲は初めて、うっすらと微笑んだ。