
ここから渉への誘惑が間髪入れずに畳みかけられる。彼が帰宅した途端、開けておいた玄関ドアの隙間から聞こえるように叫び声をあげるナオミ。人がいい渉はもちろんすぐに駆けつける。
人がいいだけでなく、内心、学生時代に淡い気持ちを寄せた相手と似た仕草をするナオミにときめいちゃってる。助けに駆けつけながら、ちゃっかり彼女の家に上がり込んでいるという事実。
この既成事実と渉が集めた不倫の証拠を天秤にかけるなら、場合によっては前者が怪しくなってくる。すると、荷解きの途中でわざと転んでみせるナオミが、渉にかぶさった拍子にキス。だから言わんこっちゃない。

これを好機と見た綾香は、マサトの入れ知恵で決定的瞬間をカメラにおさめようとする。不倫を撮(録)られる側から今度は撮る側になる。舞妓はん不倫の恐るべき逆転の発想力。
マサトの父が大量に送ってきた沖縄土産のちんすこうをお隣さんに持っていってはどうかと綾香が促す。これも作戦の内。ナオミの目を盗んで隣室に潜入した綾香は、ベッドの下に潜り込む。
逆転劇とはいえ、ちょっと前までは、この部屋のソファ上でマサトと不貞を重ねていた。ある意味馴染みの場所に他ならないためか、不法侵入に躊躇はない。不倫舞台装置の大転換は、こうして首尾よく運ぶ。
準備万端。あとは差し入れを持ってきた渉がうまく入室するのを待つだけ。ベッド下の綾香が固唾を呑む。玄関先。ちんすこうが大好きだとはしゃぐナオミが、なんだか妙に色っぽく発音する(そもそも名前からして谷崎潤一郎作『痴人の愛』の少女と同名!)。
ちんすこう……。はいはい、この響きからそっちに持ってくのね。もうひとかぶせ。ナオミが誘い入れる口実に、パイを作ったからとさらにはしゃぐ。
パイとちんすこうの組み合わせ。これで“パイちんパーティー”だと命名する。いやぁ~、くっだらない。くっだらないけれど、ときにこういうのが最高に面白かったり。小学生レベルの下ネタ連想に、不覚にも吹き出してしまったのが恥ずかしい。
<文/加賀谷健>
加賀谷健
イケメン研究家 / (株)KKミュージック取締役
“イケメン研究家”として大学時代からイケメン俳優に関するコラムを多くの媒体で執筆。アーティストマネジメント、ダイナマイトボートレース等のCM作品やコンサートでのクラシック音楽監修、大手ディベロッパーの映像キャスティング・演出、アジア映画宣伝プロデュースを手掛ける。他に、LDHアーティストのオフィシャルレポート担当や特典映像の聞き手など。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業。
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