どこにでもいそうな――友だちや同僚、家族にいても決して不思議ではない。そんな“リアル”な親近感をもっているのが伊藤沙莉という女優です。観る者は「こういう子いる!」「分かるわぁ~」と、共感せずにはいられません。
『虎に翼』第1話から、伊藤は飛ばしていました。不本意なお見合いの場において、本当に何とも言えない不服そうな表情で「猪爪寅子です」と名乗ったのです。その表情の絶妙さが実に“リアル”。吹き出しました。
まさか第1話で、朝ドラのヒロインがそんな顔をするなんて(笑)。
寅子はただ不機嫌な訳ではありません。「自分の幸せが、結婚すること」とは思えずに、心躍るなにかを探し求めたい。けれど、それが何かはまだよく分からなくて、すっきりしない。伊藤は、寅子がお見合いに臨む際の背景にある「漠然とした不安や不満」を“リアル”な表情で伝えたのです。それがまたチャーミングで、人間らしくて、観る者を惹きつけます。
そして、伊藤は何よりキャラクターを“嫌われさせない”天才。もちろん脚本の妙もありますが、下手すると「勝気」「生意気」「我が強い」と思われてもおかしくない役柄や台詞であっても、その人物ならではの魅力を映し出します。まだ1週目にも関わらず、すでに寅子のキャラクターに魅了されているのは、筆者だけではないはず。
印象的だったのが、第4話の兄・直道(上川周作)と寅子の親友・花江(森田望智)の結婚式で、父・直言(岡部たかし)に強引に歌わされたシーン。
親友の幸せを願いながらも結婚への疑問を払拭できない寅子の複雑な心情を、迫力ある歌唱で表現しました。「なんで女だけニコニコ、こんなに周りの顔色を伺って生きなきゃいけないんだ?! なんでこんなに面倒なんだ?! なんでみんなスンッとしてるんだ?!」というナレーションと、伊藤の笑っているのに怒りも感じる表情が見事にマッチ。SNSでも話題になりました。
そして、涙を誘ったのは第5話。「頭のいい女が確実に幸せになるためには、頭の悪い振りをするしかない」と強く諭す母・はる(石田ゆり子)に、真摯に向き合って決意表明しようとする姿は秀逸でした。母親を傷つけたくない。母を尊敬している。けれど、心躍る場所で自分のよりよい生き方を模索したいという想いを諦められない。寅子のどうしようもない葛藤を表現していました。