――「思い通りにならない」ことでトラブルになるケースが多そうです。
熊代:相手に気に入らない部分がみつかったり、カチンとくるような言動をされる瞬間もあるでしょう。でもお互いに許し合うことができると心が成長する、と心理学者のハインツ・コフートは論じています。
それが正しいとするならば、推される側と推す側の間柄で溝が生まれる瞬間があっても、乗り越えられたら心が成長して、より幅広い「推し活」ができるような人柄になれる。
そのために逆恨みしたりするのではなく、推しを理解しようとしてみてください。そうできればきっと相手を推すだけではなく、自分の心も少し豊かになるはずです。
――どうしても受け入れることができない場合は?
熊代:「推し活」が苦しくなったら、やはり加減しなきゃいけないというサインです。そんな状態になってしまったら、「推し活」と距離を取る必要があるかもしれない。自覚して注意したほうがいいですね。
――自分の生活を豊かにするためには必要なことですね。
熊代:せっかく「推し活」するのであれば楽しんでいただきたいのですが、「推し活」だけで人は生きてはいけない。現実とどう辻褄を合わせをするのか、「推す側」と「推される側」の間柄をどうセッティングしていくのかは、意識した方がいいと思います。
その上で「推し活」を自分の日常や職場でも応用できると、より活き活きとした生活が送れるのではないか……そんな風に提案していけたらと。
――応援するのは「楽しいこと」であるはず。
熊代:そう、まずそこが原点です。
<取材・文/鈴木雅展>
【熊代 亨(くましろ・とおる)】
精神科医・ブロガー。ブログ「シロクマの屑籠」にて現代人の社会適合のあり方やサブカルチャーについて発信。著書に『融解するオタク・サブカル・ヤンキー』(ともに花伝社)、『何者かになりたい』(イースト・プレス)、『「推し」で心はみたされる? 21世紀の心理的充足のトレンド』(大和書房)など
鈴木雅展
神奈川県出身。人文科学系出版社に勤務し翻訳書籍等の編集を手掛けた後、フリーランスとしてアニメ雑誌やWEBサイトを中心に各社・各媒体で編集・ライティングを担当したほか、アニメ関連ムック、原画集等の編集に携わる